遠慮と謙虚に贈り物


 お早う、と言いかけて、俺は跳び起きた。

「……あれ?」

 熱の時は悪夢を見る、と云うが実際そんな事はなかった。
 昨夜は爆睡していたし、今朝の目覚めも悪くない。
 ――しかし、俺が跳び起きたのは、悪夢とか何やらのせいではなかった。

「な、何で……」

 ベッドで寝ていたのは俺1人。
 昨日、夕食を食べ終わった後、先に寝かせられたのは覚えている。

 ――そうか、だからなのか。

「1階に居るのかな……」

 ていうか、居てくれなきゃ困る。何だか申し訳ない。
 急いでベッドから下りた結果、俺はまた転んだ。






「赤! 金! お早う!」
「……レイ?」

 案の定、彼らはソファーで寝ていた。
 3人掛けのソファーが2つあったって意味がないだろうと考えていたのだが、まさかこういう時に役立つとは……。
 先に起きたのは金だった。

「お早う、金。――ごめんな、1人でベッド使っちゃって」
「いや、大丈夫だ」

 熱は、と聞かれ、ないみたいだと答える。
 ……さっき転んだ事は、言わないでおこう。うん。

「よかった」

 金は俺の頭を撫で、心底嬉しそうにそう言ってくれた。
 ――本当に心配してくれてたんだ、と今更、泣きそうになる。
 俺は赤の方へ向かう。

「赤ー……赤、起きて、お早う」
「…………」
「赤ってばぁ」
「そいつとっくに起きてるから、殴っていいぞ、レイ」
「え、そうなの?」

 金がそう言うと、赤は不機嫌そうに目を開けた。

「……知ってたのか」
「俺が起きる前から起きてただろ」
「それは、テメェも起きてたに入んねぇのか?」
「お早う、赤!」

 まぁ赤は狸寝入りしていたらしいけど、何だか嬉しい俺はそんな事には構わない。
 ガバリと抱き着くと赤も撫でてくれた。

「元気そうだな」
「うん! もう治ったよ!」
「……盛大に転んだような音がした気がするが、あれは気のせいか?」

 ――バレてるじゃないですか。

「……気のせいじゃないかな?」
「そうか」

 しかし赤はそれ以上追及しなかったし、金も気にしてなさそうだったのでその件については口をつぐんでおく。

「じゃ、張り切って朝ご飯作りますか!」
「おい、レイ、大丈夫か?」
「大丈夫だって!」

 治ったって言ったでしょ、と跳ねながらキッチンへ向かう。
 ……意外と元気だし、丈夫だな、俺。
 自分で感動しつつ、何を作ろうかと思案する。
 というか、した瞬間。

「うわっ!?」
「レイ、俺も手伝ってやろうか?」
「えっ」

 背中に重みがかかったのは赤のせいだった。

「赤、」
「俺は料理ができるんだ。昨日ので分かったろ? レイ」
「それは……」

 しかし、何故『手伝う』に直結するのかが分からない。

「お前は病み上がりなんだ。好意は素直に受け取れ」
「……はい」

 手伝う、というか、彼は全て1人でやってしまうつもりのようだった。
 キッチンから追い出された俺は金の許に戻る。

「ん? どうした、レイ」
「……赤が、朝ご飯作ってくれるって」
「そうか」

 だったら甘えとけ、と金も言うのだ。不思議でならなかった。
 ――だって、赤って、そんな事を言うような人物だったか?
 答えはノォだ。

「……金は、気になんないのかよ」
「何が?」
「赤が――」

 言いかけて、口をつぐむ。
 ……そうか。
 金がそんな事を思わないわけ、ないか。
 赤は金の腕を切り落とした張本人なのだ。

「……何?」
「何でもない」

 だったらきっと、赤が変わったって事なのだ。きっと。
 金は心は広い方だけど、その傷は涙じゃ癒やせないから。

「……俺と金が居るから、だよね」

 酒場で出会ってからも、少しは素行がよくなったかもしれないが、ここまでではなかった。
 だから、俺と金が居るから。
 3人で暮らす事を決めて、ちょっと狭くて辛くても、我慢したから。
 ――って、俺達が一緒に住み始めてから、まだそんなに経ってないんだけど。

「よし! 金!」
「ん?」
「今日、ベッドをもう1つ買おう!」

 主に、赤が変わったのが、嬉しいから。

「えっ、でも……」
「いいのいいの、俺が欲しいから買うだけ! 2人は気にしなくていいから!」

 申し訳なさそうな表情をする金に背を向け赤の方に行く。

「赤。聞いてた?」
「あぁ」

 漸く広くなるな、と彼は口角を上げた。
 ――あぁ、こういう反応をしてくれた方が、よっぽど嬉しい。
 一緒に住んでるんだから。

「赤の作った美味しい朝ご飯食べて昼は外で何か食べよう!」

 1人でテンションを上げながら俺はリビングに戻り、金に抱き着いた。

「もうこんなソファーで寝なくてもよくなるんだよ、金!」

 ――俺の本音は、やっぱりそこだった。




















11-1/25





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -