睡眠のち、


 結局どっちにも頼るつもりはなかったくせに、俺は爆睡していた。

「凄かったな」
「……何が?」
「お前の寝顔」
「……ッ!」

 ちなみに今、俺は赤に背負われている。
 どういう事だ……なんかもう、全てが。
 確かに怠くて爆睡していたのは俺だと認めよう。
 そして熱のせいで多少弱っているのも認めよう。
 ――でも。

「赤、別に、こんな事してくれなくてもいいから……」
「あいつから聞いたぞ」
「……何を?」

 嫌な予感しかしないが。

「お前が起き上がろうとして、倒れ込んだ事」
「ッ! それは……っ!」

 赤は笑っていた。明らかに。
 あれは別に俺のせいじゃないとか、倒れ込んだわけじゃないとか、口の動くまま言い訳を並べ立てていたが、頭では別の事を考えていた。

「だからこうして背負ってやってんだろ?」

 ――赤が、普通に話して、普通に笑ってる。
 今までだったらこんな事、考えられなかった。
 俺は何だか感慨深くなって、そっと赤の背中に、漸く素直に体重を預けてみた。

「――レイ?」
「……何でもないよ」

 そういえば昔、病気の時くらい甘えろと、ローランサンに言った事を思い出した。

「お前、具合悪いんじゃ――」
「レイ! お早う」
「おはよー、金」

 赤は何か言おうとしていたが全て金に持っていかれていた。
 そんなこんなで俺は上座に下ろされた。

「あれ……俺、ここに座っていいの?」
「別にどこに座ったって変わんねぇだろ」
「たまにはいいだろ?」
「う……」

 向かいに赤、隣に金という形で。
 昨日とか一昨日、何気なく座った席だったが、どうやら一番収まりがいいらしい。

「……! 美味しそう!」
「だろ?」
「……テメェは結局何もしてねぇだろ?」
「赤が作ったの?」
「あぁ」

 味はどうか知らないが、テーブルの上に並べられた料理は、美味しそうだった。
 就寝前の朧げな記憶を辿ってみたら、金が作るような事を言っていたから、てっきり。
 まぁ赤がマトモな料理を作れるという点も意外だったが……。

「やった! 早く食べよう!」
「それはいいけど……レイ、お前戻したりするなよ?」
「大丈夫だって! ほら!」

 頂きます、と言って料理を一番に口にしたのは俺だった。

「うわ……凄い、美味い!」
「お前は馬鹿にしてんのか?」
「だ、だって意外だったし……ほら金も食べなよ!」
「え」

 そんな事はない、とただそれだけ言えばよかったのだ。
 俺はそれを隠す為に金に話題を振り、しかも、フォークに刺さっていた食べかけのステーキを金の口に突っ込んでしまった。
 金は何事もなく食べたが――この場を一瞬、沈黙が支配した。
 何してんだ俺、という思いに苛まれた。

「美味しいな」
「レイ、お前――」
「じゃ、お返し」
「む」

 同じように金はスープをすくい、俺の方にそのスプーンを向ける。
 ――勿論軽く冷まされてあったし、俺は何の躊躇いもなくそれを口に含んだけど。
 向かいで固まっているだろう赤の事を考えると、少しは躊躇うべきなのかもしれなかった。

「――お前ら」
「じゃ、赤も食べていいよ。ほら」

 何だか失礼な気もしなくはないがアスパラをフォークで刺すと、赤の方に差し出した。
 届かなかったので軽く身を乗り出すと、多少逡巡した後、結局赤も食べた。

「……お前も食べてるんじゃないか」
「先に破ったのはテメェだろ?」
「レイがくれる物をお前は突き返せるのか?」
「ちょ、ちょっと……喧嘩しないでって言わなかったっけ?」

 何か俺の名前が所々に出てるから俺のせいなのかもしれない。もしかしたら。
 でもよく分からない。
 2人はいつも、かつての理由では争っていないような気がする。

「……言ってたな」

 やめよう、と金が言った。赤は何も答えなかったが、黙って椅子に深く座り直した。
 一応収まって、俺は安心した。






 でも、熱を出す度に、こんな美味しい料理が食べられるんだったら――
 熱も、悪くはないよな?




















11-1/23
(どうしてだろうな)
(あいつの前だと意志が弱くなる)





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