お友達から始められる?


「……あー」

 身体が怠い、と感じたのは気のせいではなかったらしい。

「レイ、やっと起きたか。遅いから朝メシ作っちゃったぞ」
「……ありがとう、金」
「……ん?」

 そんな事を言いつつも、ベッドから出ない俺を不審に思ったらしい。
 金は近付いてきて――俺の額に手を寄せた。

「いや、金、何して――っ、平気だから!」
「? そうか」

 すんでのところで跳び起き、俺は金の手を振り払う形になる。
 うぅ……若干罪悪感があるが、ここで触れられでもしたら、バレてしまう。

 体調が悪いのは、熱のせいだ。

「う……赤は?」
「待ってるんじゃないか」
「……そっか」

 そう答えた瞬間、足元がぐらついた。

「わ……っ!?」

 意識を失ったようにも思う。
 ――気が付いたら金に抱き留められていて、俺が慌てて離れたんだけど。

「おい……大丈夫か? レイ」
「金……」

 ――何か、片手の奴に支えられるってのも、癪だ。

「お前、もしかして……」
「へ、平気! 寝起きだからぼーっとしてただけ!」

 ありがとう、と言ってさっと離れる。……俺は、低血圧でも何でもないんだけど。
 何でこんなに申し訳ない気持ちになっているのか分からない。

「……無理するなよ」

 先に部屋を出る直前、金の呟いた言葉が、俺の胸を刺した。






「……あー」

 2人が傍に居ないのを確かめて、床に座り込む。
 ……本当に、ヤバイ事になってきたかもしれない。
 これは昼食なんて作っている場合じゃないんじゃないか。

「怠い……何で?」

 最近、風邪を引くような行動は取っていなかった筈だ。
 強いて言うなら、引っ掛かる事を挙げるなら、心労が増えたせいだろうか。
 いきなり赤と金、争う彼らと住み始めて、ローランサンとも再会して。

「そんなわけないよな」

 多分、自己管理ができていなかったんだと思い直す。
 そうだ、1人で暮らしていた時ならたまにあった、不注意からの風邪……。

「レイ!?」
「……ん?」

 バタバタと足音が聞こえた。
 慌てて立ち上がろうとした時にはもう遅く、俺がキッチンの床に座り込んでいるのを、2人に見られてしまった。

「レイ、どうしたんだ? 怪我でもしたのか!?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「馬鹿か、テメェは。こういう時は熱だと相場が決まってるんだよ」
「相場って……!」

 言いながらも、否定できない自分が悔しかった。
 赤に額を付けられ、寧ろ違う意味で体温が上がる。

「赤、お前……ッ!」
「……やっぱりな。熱あるぞ、こいつ」
「なっ……」

 赤だけは冷静にそう言い、事もなげに俺を抱き上げた。
 慌てて抵抗してみるも、かつて剣を振るっていた赤に敵う筈もなく。
 トントントンと2つの足音が部屋へ向かっていた。

「何で言わなかった、レイ」
「……そりゃあ、」
「隠した方が心配しないとでも思ったか?」

 ぐ、と言葉に詰まった。そこで返答しないのは肯定の証。
 赤はゆっくり笑むと、言った。

「もう1人で生きてるわけじゃねぇんだから、レイ、少しは他人に頼る事を覚えろ」
「……でも」
「こんな調子じゃこの先やっていけねぇぞ?」

 赤の言葉は正論だったので口をつぐむ。

「分かったか? レイ。俺もあいつも、お前の事を心配してる」

 ――だったらもう少し、仲良くしてくれたっていいじゃないか。俺の心の負担を減らしてくれよ。
 そんな事を考えていると、優しくベッドの上に下ろされた。

「朝、起きてこなかったのも、熱のせいなのか?」
「……うん」
「……そうか」

 だから振り払ったのかと、唇だけで金は呟いた。

「何でテメェはもっと早く気付かなかったんだよ」
「お前に言われる筋合いはない」
「何だと!?」
「――やめてよ、2人とも」

 背中を這い上がる悪寒に布団を引き上げながら、俺はいがみ合う彼らの方に目を向けた。

「お願いだから、一々喧嘩しないで……今回は、俺が隠してたせいだよ」

 2人は黙る。

「……悪かった」
「レイ、もう喧嘩しないから、安心して寝て」

 俺の頭を撫でたのは金。
 既視感を覚えたのは、昨日、同じ事をされたからだった。

「――ローラン、」
「安心しろ。夜には起こしてやるから」
「そうそう。美味しい夕食作っとくからな」
「……うん」

 今は寝とけ、と言われ、素直に目を閉じる。



















 さっきの『ローラン』って――どっちを呼ぶつもりだったんだろうな?
























11-1/22





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