旧友の同棲相手と面会
- まさか1人じゃないとは、と少々面食らった。
ローランサンがそう告げられたのは、つい昨日の話だった。
街でたまたま見かけた、懐かしい影。
何かを捜しているようなので声を掛けたら、お前を捜してたんだよと言われた。
その言葉は意外で――少し、嬉しかった。
幼い頃、ローランサンの方は彼を求めても、彼はローランサンを求めなかったから。
翌日、会う約束を取り付けた。
会うのが約束を取り付けた本人ではないと知っていても、その同棲相手でも、必死に頼み込んでくるその可愛い姿を見れば心も揺らぐというものだ。
ローランサンは分かっていて、翌日に会う事を承諾した。
そこで冒頭に戻る。
「あんたは、この間の……」
ローランサンが金の方に向かって言う。
金はこくりと頷いた。
「……同棲って事は、恋人なのか? なわけないよなぁ?」
「あまりレイを困らせるような事はしたくないと思ってる」
「……だよなぁ」
つまり3Pは回避できたという事だ。……貞操が守られているかは知らないが。
「で、何だ。俺、できればあんたの顔を見たくないんだよな」
「あ?」
「……あんたは、俺の大切なものを奪った奴だろ」
そう言ってローランサンは、椅子を揺らして座る赤を睨み付けた。
大切なもの――それが一体何だったか、赤はもう思い出せない。
というか心当たりがありすぎて。
「……覚えてないのか」
持てる限りの全ての憎しみを込めたような声音。ローランサンは本当に怒っていた。
自分も赤に恨みはあるが――と考える金。
今はそれも受け入れかけていた。
「俺は、あの日の事――」
「……喧嘩、してるのか?」
「っ!」
陰からレイシが顔を覗かせた。
それもその筈……ここはレイシの家なのだから。
当然と言えば当然なのだが、金は慌てふためいた。
「い、いや、レイ、違うんだ! ていうか全部聞いてたのか……?」
「ううん……ローランサンの大声が聞こえたから」
不安そうに言うレイシ。ローランサンはばつの悪そうな顔をして椅子に座った。
「……あの。頼むから、喧嘩はしないでくれな。皆の中には、何か因果があるのかもしれないけど……」
「……あぁ」
3人が答えたのはほぼ同時だった。レイシを困らせたくないという思いは同じらしい。
その返答に安心したのか、レイシはほっと息をついて部屋に戻って行ってしまった。
「……可愛いよな」
ぽつりと金の漏らした言葉に赤が噛み付く。
「テメェのモンじゃねぇんだぞ」
「お前のものでもない」
「……見苦しい争いはやめたらどうだ?」
レイシに迷惑を掛けたくないんだったらな、とローランサンに言われ、2人は渋々引き下がる。
「それより――俺に会おうと思った理由は何なんだ?」
極力、赤の方を見ないようにしながら。
聞いたローランサンに金はゆっくりと頷いた。
「……この間会った時から、ずっと気になってたんだ」
「……うん?」
「あんたとレイの関係」
ローランサンが眉をひそめる。
「何でそんな事が聞きたい」
「……いや、」
「腰に手を回してたからか?」
「っ!」
金の表情は図星だという事を物語っている。
ローランサンは見てはいなかったが、赤は微動だにしていなかった。
「……ただの幼馴染みだ」
「……本当にそれだけか?」
「あぁ」
そもそもレイシが秋波を寄せられて気付くか、と問われると、微妙なところである。
「俺はずっと一緒に居たから分かる。レイシが求めてるのは恋人じゃなくて友人だ」
「友人……」
「あんたらがどういう経緯で同棲までこぎつけたのかは知らないが、あんまり調子に乗らない方がいい。痛い目見るぞ」
確かに、と金は思う。
ローランサンに腰を抱かれた時、彼は嫌な顔をしなかった。
それどころか自分が呼ばなければ、あのまま部屋に連れ込まれてもおかしくなかったんじゃないか、と。
「――でも」
「ん?」
金はローランサンを真っ直ぐに見た。
「君の時は嫌がらなかったが、俺の時は抵抗した。……これは、意識している証拠じゃないのか」
その言葉と眼差し、表情がすごく真剣だったから。
ローランサンは一瞬、笑い飛ばすか逡巡したようだ。
――結局、笑い出したが。
「嫌われてるだけかもとか、考えないのか」
「そんなわけはない」
「……面白いな」
ローランサンは目を細めた。
「そっちの奴はムカつくが、あいつ、レイシがどんなハッピーエンドを迎えるのか気になるよ……時々、来るかな」
「えっ」
「安心しろって」
俺は友人にしか見られてないからな、と。
席を立って手を振ったその背中は、何だか寂しげに見えた。
11-1/17
(――で、結局)
(あいつとレイの馴れ初めは?)
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