園に埋めた

 大きな水音が響く前に、彼は井戸の中で手を広げていた。






「レイシ……何で、こんな事」
「――俺も、メルと一緒になれるかと思って」
「え?」

 濡れた髪をかきあげられ、泣き笑いの表情でレイシは言った。

「俺を置いていかないで、お兄ちゃん」
「……っ!」

 メルは動揺する。
 腕の中で、レイシが涙を零したにも関わらず、慰める事もできない程に。

「俺、思い出したんだ……メル、ねぇ、生きててくれたんだね」

 濡れた頬の上、涙が塗り替えていく。
 メルはゆっくりとレイシの頭を撫でた。

「――そうか、だから――」

 全てが懐かしかった理由。
 記憶を失くしてから、何も思い出せないのに、懐古だけが胸を支配する。
 ――レイシが語った言葉から、メルは漸くその理由を知った。

「ありがとう……ありがとう、レイシ」

 メルはレイシを抱きしめ、自分が思い出した記憶の断片を語った。






 かつて光を取り戻した頃、僕はエリーゼと出会った。
 初めての友達――今ここで、本人を目の前にしてこんな事言うのも申し訳ないけど、彼女に夢中だった。
 今までレイシとの世界しか知らなかった僕は、新しい世界に夢中になった。
 なんて、そんな事言ったら怒るかな、レイシは……。
 でも僕は、レイシも入れてエリーゼと遊べるよう、エリーゼには何度も君の話をしたんだ。
 結局、お母さんは一緒に遊べるわけがないと言って、許してはくれなかったけど。
 多分エリーゼの心の中には、今も残っていると思う。
 エリーゼも君と遊ぶの、楽しみにしてたよ。
 ……何で、こんな事になってしまったんだろう……。

 君の事、好きだったよ。
 目が見えなかった時、よく2人で一緒に居たよね。
 僕が音を聴いて、レイシが光を見て。
 お母さんの言った事を伝える僕と、そこまでの道程を教える君。
 僕は君の顔を知らなかったし、君は僕の声を知らなかった。
 でも、世界には2人しか居なかったようにずっと一緒に居たよね。
 楽しかったね……。






 そういう事だったのだ、とレイシは思った。
 母は俺たち2人を養えなかった。彼女にそれは無理だった。
 けれど、どちらも愛してくれていた。
 だからこそ、俺は助かった。

「メル……今は、俺、メルの声が聞こえるよ」
「うん」
「こんなに近くに居て、触れることができる。見る事もできるし、声も聞こえる……幸せだよ」

 ――俺は、メルと同じにはなれないかもしれない。
 でも、こんなに近くに居る、とレイシは思う。

「また、会えてよかった……レイシ」

 ぎゅっと抱きしめ合い、2人は笑った。


















11-1/7
(光を失った事、取り戻した事が必然なら)
(僕らがもう一度出会った事も運命だ――)
(そうだろう?)

(レイシ)



『めるいど。』はこれにて完結です。
なかなか長かったなぁ……と思いますが、こうして終わりを迎えられたのも、読んで下さった皆様のお陰です。
ありがとうございました!


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