>> 死の城壁と風の都―[side:Αδερφε]→

 それからレイシは来る日も来る日も遊女達の為に働き、いつの間にか重用されるようになった。
 雑用を言い付けても嫌な顔1つせずに承諾し、手際よく終えてくれる。
 始めは男子に嫌悪感を覚えていた遊女も居たが、レイシは持ち前の明るさを発揮し、だんだんと打ち解けていった。



「レイシ」
「はい、何でしょうカッサンドラさん」

 そんな生活にも慣れたある日、カッサンドラに呼ばれたレイシは一筋の光明を見出だす事になる。

「今度、イリオンに行く事になったわ」
「!」
「それでね」

 レイシの瞳に希望が宿ったのをカッサンドラは見逃さない。

「私達だけでは大変だから……お荷物を持つ為に、あなたにも着いてきてほしいの」
「……私で、いいんですか?」

 震える声は、まるで少女のもの。
 その麗しい外見からレイシは客の前に出る事も少なくはなかったが、その時男子と分かっては困る事もあるので、高い声と一人称はしっかりと訓練されていた。

「えぇ……これはあなたにしか頼めないことよ」

 カッサンドラは言う。
 レイシは内心喜びながら、しかし表面上は重々しく答えた。

「では、是非お手伝いさせてください」

 此処では、遊女の指示に従うのが第一だった。






「此処が……《風の都》……」

 途中、カッサンドラとメリッサの冗談に笑いながら、ついにレイシはイリオンの前へ来ていた。
 呟きは風に消える。どうやら2人が此処へ来るのは初めてではないようで。
 ――ここに、エレフは居るのか。
 レイシは目を閉じ、双子の兄の姿を思い浮かべた。

「ミッシュ、こっちよ。早く」
「は……はい!」

 ミッシュ――それは、いうなればレイシの源氏名であった。
 レイシではあまりにも男子ぽいので、カッサンドラが付けた名前である。
 初めこそ反応ができなかったのだが、今となってはそれが本名だとさえ思えてくるのだから、不思議だった。

「――ミッシュの兄弟、居るといいわね」

 走ってきたレイシの耳元で、カッサンドラには聞こえないようにメリッサが囁く。

「……! うん!」

 レイシは瞳を輝かせ答えた。



















10-9/7
メリッサと仲良くなったようです



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