>> 別離

「ふーん、あんたって男なの。随分可愛い顔してるのね」
「ひっ……」
「おやめなさいよ、メリッサ」

 レイシの頬を長い指でツツとなぞるメリッサ。意地の悪い妖艶な微笑みを浮かべる。
 怯えるレイシ。窘めるカッサンドラ。果たして『善い人』は誰だろう?
 双子の兄と生き別れた寂しさに、息が詰まりそうになりながらレイシはカッサンドラを見る。

「でも男の子は駄目よね。どうして気付かなかったのかしら?」
「さぁ、触らないで顔だけ見て判断したんじゃないの?」
「……!」
「あぁ、怯えないで、怖がらないでいいのよ」

 人当たりの悪いメリッサを見、レイシはカッサンドラをまた見る。
 余裕の違いだろうか、なんて事を考えながら。

「あなた、お名前は?」
「……レイシ」
「そう」

 でも帰すわけにはいかないじゃない、とカッサンドラは言う。
 帰す――どこに――あの《麗しき故郷》へ?
 レイシは期待をこめ、カッサンドラを見つめた。

「ごめんなさいね。あなたは故郷には帰れないわ」
「えっ……何で……?」
「自分が売られた経緯、分からないの?」

 親が死んだか、親に必要とされなくなったか……。
 売られた子供は女の子ならここへ、男の子なら奴隷として働かされるのよ。
 今は……そうね、《風の都》で城壁を築いているんじゃないかしら?
 もしかして、あなたの兄弟が居るの? と男子の行き先を聞いたレイシに問うカッサンドラ。

「うん……」
「だったら余計、生き残らなきゃいけないわね」

 今ならそっちに行けるわ、と言われたがレイシは微妙な顔をする。

「……城壁をきずく、って……」
「鞭で叩かれたりするらしいわ」
「!」

 レイシの身体はすくむ。
 メリッサはそれを見ていた。

「身体が弱いなら難しいけれど……いえ、でも彼らにそんな事は関係ないわね」
「子供でも遣うんだもの」

 行きたい? と聞かれても、素直に頷く事はできないレイシ。
 ――そりゃ、エレフも大切だ。エレフの事が誰より、愛しいと思う。
 しかしそれによって俺が死んだら――彼はそれを、望むだろうか?
 彼は独りにされる事を望むだろうか、とレイシは思うのである。

「――此処に居たら、いつか彼に会えますか」
「さぁ?」

 運命の女神は残酷だからとメリッサは笑った。
 その時初めて、レイシはメリッサが好きだと思った。

「――何でもしますから、ここに置いて下さい」

 幼い彼はいきなり硬い床に額を付ける。
 カッサンドラは驚いたようだったが、メリッサはじっとそれを見つめていた。

「……俺はまだ、生きていたい」

 ぽつりとたった1つだけ、レイシは本音を落とした。



















10-8/26
(私、この子気に入ったわ)
(メリッサ……)
(この子を兄弟と会わせてあげたい)



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