>> 死せる者達の運命

 不安の予想は、はからずも的中する事になる。






「何でっ! 何で、オリオンを……っ!」
「……兄を、殺したから」

 レオンティウスにとって蠍は兄だったのだという。
 直接の、本当の兄ではないと言っていたが……兄のようなものだったと。
 しかし俺にそんな事は関係ない。

「でも、だからって、オリオンを殺すなんて……!」
「……お前は、あの、逆賊の仲間か」
「……ッ!」

 『逆賊』。
 その言葉が痛く胸を貫いた。
 オリオンはそんなのではないと。お前達に虐げられた奴隷だったのだと。
 叫びたかったが、レオンティウスの赤い瞳が恐ろしくて、俺は何も言えなかった。

「……もし、お前が逆賊と言うなら、私はお前を切り捨てねばならない」

 それをすれば必ず後悔する、とでも言うように、非常に残念そうな声音で。

「そんな……何で……」
「レイシ。お前は逆賊なのか、どうなんだ?」

 逆賊はその名を騙るだろう。
 しかしオリオンは逆賊ではなく、俺の友達だ。
 ――あんまり過ぎる。

「……俺は……」

 答えを躊躇った。

「殿下!」
「……何事だ、カストル」

 その瞬間、レオンティウスの従者であるカストルが部屋に飛び込んでくる。
 強い眼差しを向ける。よくも邪魔してくれたなと。

「《風の都》が落ちました!」
「何……!?」

 しかし、カストルのその言葉で全ては一変する。

「アメティストス率いる奴隷部隊の仕業のようです!」
「え……」

 『アメティストス』。
 紫の瞳を持つ者、だろう。
 ならば。それならば。

「奴隷部隊は各地で奴隷を解放し、戦力を増やしている模様。早ければ、明後日にでも……」

 レオンティウスは目で頷く。
 俺を置いて立ち上がったのは、俺に聞かせたくない話だったからだろう。
 ――しかし俺は、今の話だけで十分だった。

「そんな……」

 じっと外を見る。
 ――見えるわけないか。
 ふと、そういえば星は何かを語るのだろうかと思って、俺は夜を待とうと思った。






 星は俺に、何も教えてくれなかった。
 あの日、俺が2人の星だと教えた星は、少しずつ離れていて。
 ――分かりたく、ない。その意味は。
 星詠みの才が無くても分かる、分かり過ぎるその兆候。
 ……やっぱり、お前なんだな? エレフ。
 いつの間にか大人に近付いていた身体は、彼と会う事を少しだけ拒んだ。






「……戦場に」
「あぁ」

 俺はいつまでも、この王宮に置いておかれるのか。
 それが少し、悲しくもある。

「お前は兄が遺していった者だ――お前が何処に行こうと、私に止める権利は無い」
「義務も?」
「そうだな」

 レオンティウスはできるだけ、俺の方を見ないようにしているのかと思った。

「……来るか?」

 俺の心は揺れる。
 ――此処に居ようと、戦場に行こうと、俺はエレフに会えるだろうという予感が胸を占める。
 けれど。

「……いいえ」

 それは、俺が屍になってからかもしれない。あるいはエレフが。
 そんな事は許されないのだ、絶対。

「俺は此処で待つ」
「……そうか」

 誰を、とは言わなかったが、きっと分かったのだろう。蠍も知っていたのだから。

「……すまないな」

 俺はいきなり、レオンティウスに抱きしめられた。

「レ、レオン――?」
「……レオン、でいいから」
「え?」

 肩口で言われる。
 とても辛そうな声音で。

「……レオン」
「……あぁ」

 俺より少し年上くらいのレオンの頭をゆっくり撫でてやる。
 肩にかかっていた重みが少し楽になった。

「……ずっと、こうしたかった。そう呼ばれたかった」
「え……?」
「……レイシ……」

 どうしたんだろう、と思う間もなく。
 頬に軽く口付けられて、レオンは離れていった。

「レオン……?」
「親愛の証だ。気にするな」

 レオンはそう言って、重い鎧を引きずりながら歩き去る。
 ――頬へのキスは親愛の証でも、家族同士しかしないんだ。それか、それ程までに親愛なる者同士か。
 俺たちが出会ったのはつい数日前だから――きっと、後者の意味では、なくて。

「レオン……っ!」

 追い掛けて行くと、既に、王宮から少し離れた所に居た。

「レオンっ、あなたはっ……!」

 嗚呼、そういう事だったのか――あなたが最初に言った言葉は。
 その赤い瞳の中に、懐かしさを感じたのは。
 けれど言うなとでも言うように、レオンは背を向けたまま、手を大きく振った。

「……分かった。取っておく」

 あなたが無事に帰ってくる日まで。

 この辛い戦争を思っては、俺は痛む胸を押さえ空を仰いだ。




















10-11/21
もう気付いても、手遅れ



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