>> 詩人の島 「……ん……?」 柔らかな風に、目が覚める。 白い砂浜、青い海。 俺はゆっくりと身体を起こした。 「此処は……?」 回す度に痛む首。――暫く此処に倒れていたのだろうか。 エレフとオリオンが辺りに見えないのであぁ、やっぱりあれは夢じゃなかったんだな、と俺は思った。 「……人だ」 遠くに人が見える。――女性が、2人。 俺は僅かな希望を求め、白い砂の上で足を踏み出す。 結果から言うと、此処は『女しか居ない島』だった。 しかし嵐で流れ着いた俺は、此処に居ても良いと言ってくれて。 一刻も早く此処を出たいと思ったが、彼らがどこに行ったのか分からない俺には、どうして良いかも分からなかった。 「……あなたには才能があるわ、レイシ」 「……へ?」 ある日、ソフィ様は不意にそう言った。 俺の方を見て、柔らかく微笑みながら。 「不思議ね。普通は少女にしかない物よ」 「……はぁ……」 ――そんな事を言われても、嬉しくはない。 「星を詠む力……あなたには、特別な役割が与えられている。あなたにしか出来ない事があるわ」 ソフィ様は頭がよくてとても素敵な人だが、時折不思議な人だと思う。 よく分からない事を言うのだ、たまに。 「――それにしても、あなたにとって、此処は心地良い?」 「え?」 質問のベクトルが唐突に変わる。 「此処は女性ばかりだわ。あなたの話を聞く限り、前もそうだったし……女の人に囲まれてるのね、レイシ」 「な、何て事を、ソフィ様……」 「ふふ」 しかし俺が過ちを犯した事は、一度もない。いや、あってたまるか。 「――あんまり、女の人に、興味がないんです」 寧ろ惹かれるのは、―――言え、ない。 昔から本当に異性に興味はなくて、当然の事なのかもしれないけれど、母より父が好きだった。 エレフ、という誰より近い存在が居たせいかもしれない。妹が居ればまた違っていたかもしれない。 ――けど、今此処に居るのは、『俺』であって。 「あら、じゃあやっぱり、双子のお兄さんが好きなのかしら」 「……ッ! そんな事……っ!」 「ふふ、冗談よ」 ハメられた、と気付いたのは、その少し後だった。 「それとももう1人の少年?」 「もう……っ! ソフィ様、からかわないで下さいっ!」 こんな環境に居れば、自ずと女のような声が出る。 前みたいな高い声、思い出したのは『ミッシュ』の名。 確かにあれも嫌いではなかった。俺が俺であったから。 「――あなた、ずっと此処に居たら?」 「……え……?」 突然、ソフィ様の表情が憂いを帯びる。 「あなたの運命が見えるわ――それは良い事ばかりではないの、それどころか悪いもの。……此処に居れば、そのどんな運命からも逃れられるわ」 「ソフィ様……」 「ただし、それよりもっと辛い運命に出会う事になるけど」 大切な人と共に生きる事も、死を見届ける事もできない。 痛みや苦しみはないけれど、彼らとの思い出は、その止まった時の中にしかない――。 あなたはそれでも平気? と。 「……俺は……」 傷付く事は、辛くて悲しい。 二度とそんな風に傷付きたくないって思うし、立ち直れなくなる時もあるかもしれない。 ――それでも、俺は。 「傷付いてもまた、大切な人と一緒だったら、立ち上がる事ができます」 「……レイシ……」 「だから、俺は」 行きます。 ソフィ様の目を真っ直ぐ見つめて、俺は言った。 10-10/10 (……そうね、レイシ) (あなたなら大丈夫だわ) (つよくて優しいあなたなら……) ← |