>> 嵐女神の気まぐれ

 アルカディア――俺達の故郷。
 しかし、あの山に帰るにはどうしたら良いのだろうか?
 昨夜はエレフとオリオンが順番に起きて見張りをしていてくれた。追っ手が来た時に逃げるようにする為だ。
 ……いつまでも、守られてばかりじゃ駄目だな。俺も頑張らなければ。
 そう決めて、俺達は翌日の朝、どこへ行くかを話し合った。



「でも俺達は、もう自由なんだよな。どこに行っても良いんだよな」
「うん」

 本当に嬉しそうなオリオンに俺は頷く。

「色々な所に行きたいな。――アルカディアは、最後でもいいや」
「えっ?」

 昨日、あんなに帰りたがっていたエレフがそんなことを言い出したので、俺は驚いた。

「だって、レイシ、俺達の故郷だぞ? 俺達はいつ帰ったって良いんだ!」

 嬉しそうなエレフ。――それもそうだ。
 神々が愛したとさえ思われる程の、その美しさ。誰が何と言おうと、あそこが俺達の故郷だ。
 俺は頷くと、ある事を思い出した。

「あっ、そうだ!」
「ん?」
「俺、海見たい!」

 『海』。
 それは愛した事のない恵み。
 山に囲まれて育った俺達は、海を知らなかった。

「いいなそれ」
「海って……それだけ?」
「だって俺達は自由なんだよ、オリオンがさっき言ったでしょ? だから海を見に行くのだって自由だよ!」
「そりゃそうだけど……」

 何だか渋っているらしいオリオンにエレフも言う。

「何だよオリオンは海見た事あるのか?」

 じっと見つめた。オリオンは俺達の方を見ようとしない。
 暫くの沈黙の末、負けたのはオリオンの方だった。

「分かったよ……じゃあ、海に行こうか」
「やったー!」
「どうせオリオンも見た事ないんだろ?」

 にやにやとしながら問うエレフの言葉にも、オリオンは明確に答えなくて。

「よし、じゃ、海へ出発! ――あれ、海はどっちだっけ?」
「え」

 ……とりあえず、街の賑やかな通りに出ないように気をつけながら、適当に進む事にした。

(子供達がさらわれるのを、助けてくれる人なんて居ない、止めてくれる人なんて居ない)

(居るのは、無慈悲な女神だけ)







 荒れる海。離れる手。
 二度と離さないと誓った手が、離れていくそれが、夢だったのかは分からない。

「オリオン……!」

 叫んでも決して届かない。猛る風に飲み込まれてしまうのだ。
 遠ざかる船。エレフとオリオン。――あぁ、いつかみたいだ。
 大丈夫、俺達は約束したから。

「レイシ!」
「レイシ……ッ!」

 また出会えるよ、双子星が在る限り。一度は出会えたのだから、今度も大丈夫。
 ただ――今度は、叫ぶ声が2つになったけれど。

「エレフーっ!」

 手はやはり届かなかった。

 それが夢か現実かは分からないけれど。















10-9/30
(――これが夢でも、現実でも)
(どうか彼らを生かして下さい、女神様)

幸せは脆くも崩れ去ってゆく



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