>> 遥けき面影

「オリオン、ストップ!」

 エレフの声が上の方で聞こえた。
 最も、俺は地面に伏せているのでよく分からない。

「何だよ……?」
「オリオン、前話しただろ。レイシは病気持ってるから、あんまり長く走れないって」
「あ!」

 ごめんな、と言いながら、ぱたぱた走ってくる足音。
 俺の髪を撫でてくれる優しい手は、エレフのそれと同じくらい安心した。
 ――それにしても、エレフはこの人に、何をどれくらい話したのだろうか。
 一緒に逃げている事を考えても、彼は(オリオン、と言ったっけ)信用できそうだけど……。

「あ、俺、オリオン。君はレイシだろ? エレフから聞いたよ」

 お前がせがんだんだろ、と笑うエレフにでも話してくれたろと言うオリオン。
 口喧嘩ではエレフの方が少し優勢だったみたいだけど、俺は息が整わない中、笑ってしまった。
 辛い――。
 そう思っても、笑うことはやめられなくて。

「レイシ……?」

 戸惑ったようなオリオン。けれどすぐにエレフも笑い始めた。

「2人して何だよ、もう……! 笑うのは、無事に逃げてからにしろよな!」
「あはは……! そうだね、そうだよね」
「ふふっ……レイシ、もう平気そうだな」
「うん、大丈夫だよ……ごめんね2人とも、心配かけて」

 エレフに手を貸してもらって俺は立つ。まだ笑いは消えないままだ。
 さっきまでは走っていたけど、もう追い掛けてくる事はないだろう。俺達は歩き出す。

「ねぇ、どこに行くの?」
「うーん、いざ自由になったら、あんまり浮かばないよな……」
「オリオン、あんなに逃げたがってたくせに!」

 うるせーお前もだろ!
 あまりにも賑やかで、俺はまた笑う。
 確かに女が多いあの場所も、賑やかでなかった事はない。十分に楽しかった。
 ――でも、漸く、双子の兄と出会えた。仲良くなれそうな友達とも出会えた。
 今はそれだけで十分だと、思う事は高望みなのだろうか?

「……星が、綺麗だね」

 前に見上げた双子星は、まだ同じ場所に在った。俺はほっとする。
 だって――あの星がなかったら、悲しいもの。
 そう思った瞬間、隣のエレフが大きな声を上げる。

「レイシ、オリオン、あそこ!」
「えっ?」

 双子星の場所を知らないらしいオリオンは一生懸命探す。
 元から見ていた俺は、エレフが指しているのが何かすぐに分かった。

「あれはオリオンだね、エレフ!」
「そうだな!」
「何だよ2人とも、何の話してるんだよ!」

 教えろよ〜と言うオリオンに、笑う俺達。……2人の秘密って、なんか素敵だ。
 結局仲間外れは可哀相で教えてあげたのだけれど、2人の秘密はまだまだある。
 例えば山の、どこに美味しい果物がなるとか……。

「……帰りたい、な」

 今帰るのなら、俺は迷わず、オリオンにも秘密の場所を教えるだろう。
 もう『友達』だもん。その方が楽しい。
 その呟きは俺達を寂しくさせたけれど、同時に希望ももたらした。

「――じゃあ、帰ろうか、レイシ!」
「えっ、本当!?」
「うん!」

 きらりとエレフの瞳が輝く。

「俺も、帰りたい!」

 あの懐かしい山へ。
















10-9/29
(勿論、オリオンも一緒ね!)
(えっ)
(やったー、レイシ、ありがとー!)

懐かしき、アルカディアへ



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