死者の書 予想に反して、最後の魔神はなかなか出てこなかった。 「バジリスクもう何回め〜……? もうバジリスクの解放石は持ってるんだけどなあ」 「レイシ、解放石を落とした魔神とエンカウントしないようにはできないのか?」 「だからそれも俺の管轄じゃないって。運営に言ってくれ」 「今度はズー! もうしつこい!」 「アルテミス、先に神技使わないでよ! 僕が使おうと思ったのにー!」 「あ、ところでレイシさん」 「ん?」 「レイシさんは、ここにいる神さま皆を守護神にしてるんですか?」 「そうだけど?」 ナビィの質問に答えると、変な顔をされた。 「何でそんなことができるんですか?」 「……それって、道徳的な意味で?」 「普通はできない筈なんです、守護神は1人しか設定できないようになってると思うんですが……魔神戦中も、守護神は変えられない設定になってますし」 「やっぱ俺、特別なのかなあ」 そんな観点において特別でもあまり嬉しくない。 自分でさっき、道徳的な意味でとか訊いたが、確かに守護神を1人に決められないのは優柔不断かもしれない。 普通、複数の守護神が居るなんて聞かないもんな。 「でもさ、守護神を1人に決めたら、他の神さまは皆、自分が解放された場所に戻らなきゃならないんだろ?」 「はい、行動範囲は基本的に、それぞれのエリアだけです」 「それは困るな、そしたら解放のスピードがかなり落ちるだろうし」 戦ってもらう身としては、不安すぎる。 「このままでいいか……不自然すぎるけど」 「まあ、そうですね。変ですけど、不都合ではないですから」 「沢山居てくれた方が、ご利益がある気がする」 ふと空を見上げると、既に太陽は殆ど隠れていた。……どうりで寒いわけだ。 俺は6人に呼びかける。 「なあ、今日はもうここら辺にして休まないか? 丁度そこにオアシスもあることだし」 「だが、もう少しでアヌビスが……」 「ヴァルキリー、その台詞何回目だよ……まだ2日目だぞ? そんな焦ったっていいことないって」 「うーん、確かに寒くなってきたし、もうこれ以上はやめた方がいいかもね。あたし疲れたー」 「え、神さまって疲れるもんなの?」 「んー、気持ち的な問題?」 「何だよそれ……」 「僕レイシに賛成ー」 「オイラも賛成ニャー。オイラをペット扱いする奴なんて、一日くらい解放が遅れたって問題ないニャ!」 「バステトさま、今の解放石を通じてアヌビスさまに聞こえてますが大丈夫ですか?」 「うっ……ま、まあ、大丈夫だニャ!」 「よし多数決で決定ー。ほらヴァルキリー、ジークフリート、トトもこっち来いよ。明日になってからにしよう?」 名前呼ぶだけで大変なんだが。 俺はオアシスの傍で横になり、星空を見上げた。 「今日は随分星がよく見えるな。晴れてたっけ?」 歩いたり、魔神や敵を倒したりするのに忙しくて、空を見上げる余裕もなかった気がする。 なんか……追われてるな、俺たち。 日々に余裕をなくしてる。 「そうだ、レイシさん、これを渡しておきますね」 そう言って、トトが巻物を俺に寄越した。 「これは……?」 「死者の書です。それに名前を書くと、力を得られます」 「死者の書!? すごく危ない響きだ……」 一歩間違えると、これに名前を書いた人が死ぬみたいな感じの……。 「何で、こんな大変な物を、俺に」 「レイシさんのことを信用しているからです。それに、死なれても困りますし……自衛くらいはできるようになっておいてほしいので」 「悪かったな、弱くて」 「そういうことじゃないんですが」 でも、トトは本当にさっき会ったばかりだ。せいぜい半日くらい。 もうそんな神さまに信用されているのか、と思うと正直すぎる神さまを心配する反面、ちょっと嬉しくもあった。 何にせよ、信頼されるのは嬉しい。 「分かった、ありがとう。できるだけ使わないようにしておく」 「死者から力を得る分については問題ないと思うんですが」 だが響きが危ない。 「んー、俺寝る」 「俺が見張りに立つ」 「頼んだ、ジークフリート」 俺はひらひらと手を振り、無責任にも一番先に眠った。 死者の書は、一応受け取っておく。懐に忍ばせておいた。 戻る |