オアシスを行く 「レイシ、随分さくさく歩くんだね」 アルテミスが後ろから声を掛けてくる。 「暑くないわけ?」 「いやそりゃ、暑くないわけじゃないけど。でも早く解放した方が、早く砂漠から出られるだろ? だから頑張ってエンカウントしようと思って」 「確かにね」 だが砂の上はやはり歩きにくいし、暑さで体力も削られていく。 脱水症状や熱中症、日射病も怖いから、オアシスを見かけた際には必ず立ち寄ることにしている。 「あっオアシスだー!」 「ちょっレイシ、早いって!」 「走って暑くならないのか……?」 暑くならないわけじゃないが、陽炎のせいで揺らめいて消えてしまいそうなオアシスが、本当に消えてしまったら嫌なわけで。 オアシスの一番乗りは、いつも俺だった。 「神さまって、水飲まなくて平気なの?」 「必須ではないな」 「私たちは、食べたり飲んだりしなくても生きていけるが、食べても問題はない。そういうことだ」 「ふーん、だから貢物受け取ってるのか」 「だって嬉しいじゃん?」 「あたしたちの為に取って、持ってきてくれたってことでしょ!」 「……そういうもんなのか」 俺にはやっぱりよく分からない。水を飲みながら思った。 「じゃ、行くか」 「この先にアメミットが居る筈です!」 「早いな、もう1人め解放か」 「レイシ、まだ倒していない内から……」 「1人めは誰かな? バステト?」 「アポロンはバステトと遊びたいだけでしょー。あたしはトトがいいな」 「いいなって、アルテミスこそ希望じゃん」 「はいはい、行くぞ双子」 アポロンとアルテミスを引きずって歩き出す。この2人の話に付き合っていたら進まない。 しかし本当に早い。まだ太陽は真上に来てはいない。 「お、あれアメミットじゃね?」 「行ってくる」 「……さすがヴァルキリー、話が早い」 「レイシは行かないのか」 「俺? 言ってなかったっけ、そういう契約を結んだんだ」 「契約?」 「いいからジークフリート、行くよ! ヴァルキリーだけに戦わせてらんないからね!」 「あ、あぁ」 ――神さま増えてきたら、なかなか会話も終わらないのか。しかも増える度に、同じ事情を説明しなきゃならないんだな。何だか面倒くさくなってきた。 4人だけでも(ナビィも入れれば5人だが)統制するのは大変なのに、これ以上増えて大丈夫なんだろうか。俺はちゃんと率いて進めるんだろうか。 ……凄く不安だ。 「……どうしたんですか? レイシさん。何だか浮かない顔をしてますが……」 「……いや、」 「レイシー! 最後の解放石持ってきたよ!」 「おー……早いな」 「レイシ、どうやって解放するのか見せてー!」 「どうやっても何も、」 俺は特に何もしていないのだが。 アポロンとナビィから解放石を受け取り、エジプト砂漠初の神さまを解放する。 「……あー! 出れた!」 「トトー!」 「私を解放してくれたのはあなたですか? ありがとうございます。あと記録しておきたいのであなたの名前を教えてください」 「記録? レイシだけど」 「あと、年齢と職業と血液型と誕生日と星座とこれまでの経歴を簡単に」 「では次に行きましょうか!」 見た瞬間、割とまともそうな神さまだと思った。 手に持っているのはパピルスだろう、きっと記録魔だ。よく分からないが。 ……まともじゃ、ないのか? 「いやもう、まともな神さまなんて期待した俺が馬鹿だったかもしれない……」 「レイシさん、今までにどのくらい魔神を倒しましたか?」 「え? えーと……」 「いえ、今までではなく! これから少なくとも魔神を3回倒してほしいんです。調査にご協力お願いします!」 「……あー、うん。3回くらいなら、すぐにエンカウントできると思う」 「皆ー! 1つめの解放石発見!」 「あ、早速1回め」 ただし魔神のことを「解放石」と呼ぶのは失礼だと思う。解放石を持っているのは間違いないが。 「あと、ロングボウを3つほど頂きたいです。研究と改良をしたいので」 「へー、トトってそんなこともできるのか。はいどうぞ」 「もう持ってたんですね! ありがとうございます!」 「1つめゲットー!」 「こっちにも魔神が居るぞ!」 「了解!」 「あー、もう2回目」 「こっちにも!」 「ほい、3回」 「……あなた、凄いですね。何者ですか」 トトが若干訝しげな目で見てくる。長いのでそこの事情は割愛するが、そもそもこのエンカウント率は俺のお陰ではないと思う。 神さまが行動範囲内ぎりぎりを忙しなく飛び回っているお陰ではないかと思うが。 「レイシ、見て見て、こんなに集まったー!」 「……凄いな」 「こっちの解放石は、全て集まったぞ」 「お、じゃあ解放するか」 あっという間すぎる。何というか、息をつく間もない。 「……ニャ?」 「……猫神」 「失礼ニャ、オイラにはちゃんとバステトって名前があるニャ!」 「レイシさん、バステトさまは豊穣の神さまですから、とても美味しい作物を実らせてくれるかもしれません」 「え? そうなの? じゃあとりあえず貢物、はい」 「それが貢ぐ態度ニャのか? ……これは……ナツメヤシ!!」 「バステトはナツメヤシが好物なのですか? ふむ、なるほど……」 「トト、メモするのはやめるにゃ! オイラまだ何も言ってニャいニャ!」 「よし、次行くぞ次」 人が増えてやかましくなってきた……。 戻る |