平原の神々

 魔神と敵探しは、なかなか難航した。
 あとファーブニルが持つ解放石だけ、あとレアモンスターだけというところなのだが、最後の1つがどうしても難しい。
 同じ魔神と敵ばかりだし、日も暮れてくるし、皆もだんだんフラストレーションが溜まってきたらしかった。

「……少し休むか?」

 同じ景色の中をぐるぐる。そりゃあストレスも溜まってくる。
 俺はと言えば、そんな強迫観念に駆られてはいないから呑気なものだが。
 神さまでも疲れるんだな、なんて思ってしまった。

「いや」
「もうそろそろ出ると思うんだよねー!」
「それパチンコで負けてる時に出る台詞だろ」

 いいから休憩、と言ってまず俺が座り込む。
 少し前を歩いていたヴァルキリーが、睨むように振り返った。

「レイシが歩いてくれないと、エンカウントできないんだ」
「そうだろうな。でも俺だって疲れるよ。少し休んだらまた歩き出せばいいだろ。なっ」
「だが……」
「そんな根つめてたら、肝心の魔神とか敵が出た時に、倒せないんじゃね?」
「……ヴァルキリー、レイシの言う通りだと思うよ」

 先に諦めたのはアポロンだった。
 俺の隣に来て座る。
 ヴァルキリーはその様子を苦々しげに見ていたが、どうも諦めたらしかった。

「ねえ、レイシって何者なの?」
「……アポロンには話してなかったか?」
「私も聞いていない」

 ナビィも戻ってきた。

「うーん、近くに魔神が気配はないですね……って、どうしたんですか?」
「やっぱりな、少し疲れたから休憩。ナビィも俺の話聞いてく?」
「レイシさんの話って……」

 レイシさん、何か思い出したんですか? と聞かれる。

「いや、何も。だからこれから、記憶が無いんだってことを話そうと思って」
「えっ、レイシ記憶ないの? どういうこと?」
「どういうことも何も、そのままの意味だよ。俺、起きたら始まりの森で倒れてたんだけど、その前の記憶が全くないんだ」
「……そうだったのか」
「何も? 本当に、何も覚えてないの?」
「名前しか分からなかった。あと、一般常識くらいしか」

 何とも都合のいい脳みそである。

「ふーん……思い出せるもんなの?」
「それを神さまに訊かれると困るんだけどな」

 寧ろ俺は、神さまなら何とかできるんじゃないかって思って話してみたんだが。
 どうしようもないのだろうか。

「少なくとも、僕にはどうしようもないね。僕が持ってるのは生憎弓と矢だけだし」
「私にも、何も方法がないな……」
「そっか……」
「でも、ギルガメッシュとか、ああいう変な研究をやっている神なら分からないぞ」
「ギルガメッシュ?」
「ヴァルキリー割と包まないで言うよね……」

 もしくは、お前の失った記憶に近い物事に出会うとか、そういうことがあれば思い出せるんだろうけどな。
 困ったようにヴァルキリーは言う。
 ……やっぱり、神さまも全知全能じゃないのか。

「全知全能って言われてるのは、少なくとも父さんだけだと思うけどね」
「父さん?」
「ゼウスだよ」
「……成る程」
「すまないな、私も戦いに関してしか」
「いや、いいよ。そんな簡単に戻ったら、俺だって苦労しないし」

 それに、この神さま解放の旅も終わってしまう。
 いつでも投げだしたい気分だったが、何だか可哀想で、見捨てられない気分になってくる。

「でも、戻ったら神さまを解放するのはやめちゃうんですよね?」
「ああ、そのつもりだけど……」
「えっ、そんな!」

 じゃあ記憶戻んなくていいよ! と言うアポロンを見て溜息をつく。

「あのさ、アポロン――」

 その時、向こうに僅かな影が動く。

「どうしたの? レイシ」
「あれ――」

 大きな影。小さな影。遠くに消えていこうとする。
 俺は思わず、反射的に立ち上がり、走り出した。

「魔神と、レアモンスターだ!」

 ヴァルキリーとアポロンが追いかけてくるのも早かった。
 そして俺を追い抜かし、それらに追いつき、戦いを始める。
 遠かったそれらに俺が追いついた時には、既にそれぞれ解放石を手にしていた。

「これで、アルテミスが解放されるんだね!」
「ジークフリートもな」
「分かった分かった、順番な」

 俺はまず、アポロンとナビィから解放石を受け取り、アルテミスを解放する。

「アルテミス! よかった、怪我はない?」
「えー……あ、アポロン! また会えてよかったー!」
「えーと、次はジークフリートな」

 次にヴァルキリーとナビィから解放石を受け取り、ジークフリートを解放する。

「……ここは……」
「ジークフリートさま! ご無事でしたか!」
「彼、レイシが助けてくれたんだ」
「ヴァルキリー、」

 それぞれが感動の再開に沸き立つ。……意外と仲良しなのか? 神さま同士って。
 何だかしんみりしていると、アポロンとアルテミスが俺の所へ戻ってきた。

「アルテミスも協力してくれるって!」
「ありがとうレイシ、解放してくれて。あたしも着いてくからね!」
「レイシ、ジークフリートも協力してくれるそうだ」
「感謝する」

 一気に味方が増える。確かにこれは、心強い。
 これからの神さまも、もっと早くに解放できそうな気がする。
 ……だが。

「……お前らの関係は、」
「アルテミスは僕の双子の妹だよ!」

 ……相変わらず、凄そうなパーティーになりそうだ。

「ジークフリート、お前が頼りだからな……お前、冷静そうだし」
「レイシさん、ナビィのこと忘れてませんか!?」
「ナビィは人の言うこと聞かないだろ!」
「私の名前が挙がっていないのも気になるな」
「ヴァルキリーだって、さっき魔神見つけたら割と突っ走ってたろ!」

 あれは、とか2人の何か言う声が聞こえるが、俺は全て無視する。

「レイシ、次はエジプト砂漠だよ。神さまは3人」
「……やっぱり、3人がデフォルトなのか」
「砂漠だと大変そうだねー? レイシ、大丈夫?」
「そっちこそ、そんな軽装で大丈夫なのかよ?」
「僕たちは神さまだから平気!」
「あーはいはい」

 結局夜になってしまったので、今日はギリシャ平原で休むことにした。
 夜の砂漠は寒いし、危険だ。

 ……砂漠での解放、長引かないといいけど。
 疲れていたのか、夢を見ることもなく朝まで眠った。

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