解放する役目

「倒せないって……どういう意味ですか?」
「そのままの意味だけど」

 ナビィの困惑が伝わってくる。

「魔神を倒せたのはマグレだって、さっき言ったろ。あんな……もう俺、あんなこと、怖くてできない」
「大丈夫だ、安心しろ」
「ヴァルキリー……?」

 俺は俯く。
 ヴァルキリーは言う。

「これから戦うのはお前じゃない、私だ。私が全ての敵を薙ぎ払い、魔神も倒す。お前は私たちを導き、解放してくれるだけでいい」
「え? でも、それじゃあ」

 俺の意味ないんじゃ?

「私は本来、ここ――始まりの森を離れられないんだ。だがお前の守護神となれば、着いていける。ただし多分、私は神を解放することはできない」
「それは、ヴァルキリーが神さまだから?」
「多分な」

 同様の理由でナビィにも無理だろう、とヴァルキリーは肩を竦めて付け加える。

「私に出来る限りのことはする。だから私たちを、ギリシャ平原の神の許へ連れて行ってくれるだけでいい」
「……わかったよ」

 そこまで言われちゃ仕方ない。
 戦わなくてもいいなら。

「では、すぐに向かいましょう。今日の内に、ギリシャ平原の神さまは解放したいですね」
「え、そんなにハードなの?」
「魔神が、神さまが解放されつつあると知ったら、どんなことをしてくるか分かりませんから。それに味方は多い方がいいと思います!」
「そうだけどな……」

 とは言ったって結局、俺は実質何もしない係なのだが。
 先導するナビィについていきながら俺は問う。

「で、そのギリシャ平原っていうのはどこにあるんだ?」
「もう着いてますよ!」
「え?」

 始まりの森の魔神を越え、僅かな道を頼りに進む。
 木々を抜けた先には――緑の草原が広がっていた。

「ここがギリシャ平原です!」
「ここが……何か、全然ギリシャって感じがしないんだけど」

 大体、ギリシャに何か固定したイメージを持っていたわけでもないのだが。

「ここには、アポロンさま、アルテミスさま、ジークフリートさまの解放石がある筈です」
「ジークフリート? ……って……」

 ギリシャ神ではなかった気がする。
 というか神だっただろうか……。

「まあ細かいことは気にしない……」
「あっ、来ました、レイスです!」
「レイシ、下がってろ!」
「えっ、あっ、はい」

 ナビィの声とほぼ同時にヴァルキリーは前に出る。俺は大人しく下がる。
 正直情けないことこの上ないが、どうも戦うのは苦手らしい。
 命を奪うのは苦手だ、とやらせておきながら思う。

「いいか、敵と魔神を倒すのは私の役目だ。お前はただ、神を解放してくれるだけでいい」
「……分かってるよ」

 分かってはいるのだが。
 あくまで俺はただ巻き込まれただけで、都合上協力し合っている、ただそれだけの筈で。

 ――分かっては、いるのだが。



 といいつつ、1人めの神さまの解放石はあっという間に揃った。

「凄いなヴァルキリー、サイクロプスを1人で倒すなんて……お疲れ様」
「早く解放してしまった方が色々と好都合だからな。多分、彼も協力してくれるだろうから」
「アポロンの解放石か」

 ナビィから石を受け取る。
 今度も特に念じなかったが、発熱し、発光し、気が付くと目の前には少年がいた。

「……アポロン?」
「びっくりした! ……君が僕を解放してくれたの?」

 金髪の少年はまず俺に向かって言い、隣に居たヴァルキリーとナビィを見た。

「よかったです、アポロンさま」
「解放してくれてありがとう! もう、あんな狭い所は嫌だよ……」
「ああ、私ももう戻りたくはないな。……ところでアポロン、」
「うん、協力してくれってことだよね? 聞いてたよ」

 僕でよければ、とアポロンは言う。

「じゃあ、次は誰を解放するの?」
「次はアルテミスさまが一番早いですね」
「よしっ、頑張るぞー!」
「アポロン、そっちじゃない、そっちじゃ」
「早速魔神とエンカウント!」
「ヴァルキリー、あいつ何とかしてくれ!」
「あっ、あの魔神を倒したら、ジークフリートさまの解放石もあと1つになります!」
「よし、アポロン、行くぞ!」
「ってもう戦ってるし!」

 ――割と、収拾のつかないパーティーになりつつある。

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