神さまと魔神と解放石

 ナビィに従いて、森の奥へ向かう。

「あっ敵ですよ!」

 ナビィは時折そう言って俺に敵を倒すことを促してくるが、

「いや」

 俺は何とか回避して進んだ。

「何で倒さないんですか?」
「……俺には、無理だよ」
「無理ってでも、やってみなきゃ分からないじゃないですか」
「やりたくない」

 肩をすくめてナビィに返す。

「……じゃあ、魔神も倒してくれないんですか?」
「魔神?」
「ヴァルキリーさまの、最後の解放石を持っている魔神です」

 こっちを向いて話していたナビィは、正面に向き直る。
 つられて俺も見ると――そこには成る程、魔神と言われて納得できるようなモンスターが居た。

「あいつが、魔神」
「はい。あの魔神を倒さないと、ヴァルキリーさまは解放できません」

 いつの間に、こんな拓けた場所に来ていたのだろう。確かにここならば、戦うにもおあつらえ向きだ。

「……俺、何で戦えばいいの?」
「はい、これどうぞ」
「……盾」

 更にいつの間に持ってきていたのか、ナビィは俺に、木の盾を差し出した。

「ウッドシールドです」
「だよな……でも、盾じゃ戦えないと思う」
「大丈夫です、何とかなります」

 呆れて俺は、ナビィを見返した。……戦うの、俺なんだが。
 ナビィに何か言い返そうとして口を開いた瞬間、痺れを切らした魔神が襲いかかってきた。

「!」
「レイシさん!」

 俺はすんでのところで回避する。ナビィは俺の名前を呼んだきり、さっさと姿を消してしまった。
 狡い。神さま、解放してやらないぞ。心の中で呟く。
 魔神はひたすらに攻撃を繰り出してくる、俺はひたすらに回避する。自分の意外な俊敏さに驚いた。

「くそっ、どうしたら……」

 ふと、大きな木の根元に、大きな剣が転がっているのが見えた。
 あまり上品なデザインではないし、少々不格好だが――使える物なら、使うしかない。

「鬼さんこちら!」

 俺は木の方へ走り出す、魔神もそれを追ってくる。
 少々重いことを覚悟して剣を持ち上げたが――意外にも、それは軽かった。
 そして手によく馴染む。俺は攻撃を躱し、剣を振り上げた。

「食らえーっ!」

 一撃を与える、魔神が怯む、そしてもう一撃。
 重ねる内に、魔神の動きが鈍くなる。
 そして――

「……終わ、った?」

 魔神が動かなくなった。石が彼の傍らに落ちている。
 俺は拾い上げた――これが、ヴァルキリーの。

「レイシさん!」
「ナビィ! お前、どこ行ってたんだよ!」
「すみません、ナビィが居たら邪魔かと思って……」

 これ、と言って、俺は石を差し出す。

「勝ったんですね! レイシさん、解放をお願いします!」
「解放って、どうしたら……?」
「多分……この石を持ってもらって、出てきてください! ってお願いすればいいんじゃないですかね?」
「適当だな……」

 ナビィが差し出した石を受け取る、その瞬間、何もしていないのに石が輝き出した。

「うわ……っ!?」

 強い光に思わず目を瞑る。石も呼応するかのように突然発熱し出したので、思わず落としてしまった。
 俺は恐る恐る目を開ける。

「ヴァルキリーさま!」
「……私を解放してくれたのは、お前か?」

 目の前には、戦乙女。確かにその名に相応しい、凛々しい神さまだった。
 俺は茫然として口が利けない。色々とありすぎて、さっき魔神を倒したショックも忘れそうだった。

「ヴァルキリーさま、ご無事でしたか!」
「ああ……長い間、狭い所に閉じ込められて窮屈だったが、問題ない。……彼が、他の神も解放してくれるのか?」
「はい!」
「えっ、ちょ……おい、ナビィ」

 勝手に決めるな、と言いかけたが、ヴァルキリーに真っ直ぐ見つめられたので、俺は何も言えなくなった。

「礼を言う。ついでと言ってはなんだが、他の神も解放してはくれないだろうか? 多分、私だけの力では難しい」
「……今のだって、マグレだ。俺はナビィに服を貰った恩があるし、それは返したと思うから、出来れば関わりたくない。俺は強くないし……」
「大丈夫だ、私がお前の守護神になる」
「守護神!?」

 凄く仰々しいことになっている気がする……。
 俺としては、できれば辞退したいのだが。

「よかったですね、レイシさん。ヴァルキリーさまが守護神になってくれたら、神さまもあっという間に解放できちゃいますね!」
「だから……」

 溜息をつく。でも多分、聞こえてない。

「……ちなみに、どれくらい解放すればいいんだ?」
「「やおよろず」と日本の神が言っていたのを聞いたことがある」
「ナビィも、正確な人数は知らなくて……ただ、この近くに封印されている神さまならわかります」
「やおよろず……」

 「やおよろず」とは「八百万」と書くが、本当に八百万居るわけではなく、つまりとても多い数を示す。嫌だ。絶望しかない。

「……今ヴァルキリー、日本の神って言ったか?」
「? あぁ」
「神さまを解放するために、そんな各地を回らなきゃいけないのか?」

 少なくともヴァルキリーは、日本の神ではないと思う。

「お前がどんな想像をしているのかは分からないが、この森の外に広がっているのはギリシャ平原だし、平原を越えた先にあるのはエジプト砂漠だぞ」
「エジプト!? どんな地理関係なんだよ……」

 別に関係ないのだろうか。というか俺、こういう一般常識的なことはちゃんと覚えてるんだな……。

「……ナビィ、俺、」
「レイシさん、記憶がないんですよね? だったら神さまを解放しながら、旅をして記憶を取り戻せばいいんじゃないですか? 行く宛てはないんですよね?」
「おい、目的」

 神さまを解放するのがあくまで第一目標かよ。
 ……だが、ナビィの言うことは尤もだ。
 今の俺はこの世界に関して素人だから、誰かと一緒に行動して損はない。

「ヴァルキリーさまも守護神になってくださるそうですし、多くの神さまを解放したら、きっと記憶も戻りますよ! ねっ?」
「……そうだな……」

 俺はヴァルキリーをちらりと見る。
 ヴァルキリーの瞳に大した感情は見えなかった。これが神で、これが戦乙女なのだろうか。

「その代わり、俺が記憶を取り戻したら、神さまの解放は終わりにするからな」
「うー……分かりました」
「ヴァルキリー、力を貸してくれるか?」
「勿論だ。元々は、私たちが封印されなければ、お前に迷惑を掛けることもなかったのだから。全力で協力させてもらうよ」

 確かにその通りなのだが。

「で、次はどこに誰を解放しに行くんだ?」
「次は、この森を抜けた先のギリシャ平原に行きます。3人の神さまがいる筈です!」
「3人!?」

 いきなり3人も居るのか。ここが特別だっただけなのか?
 ナビィは付け加える。

「石も、色々な方法で手に入ります。魔神を倒したり、敵を倒したり……」
「そうだ、ちょっと待て」

 どうして忘れていた、俺。こんな大事なことを。
 さっき感じた痛みが、怒涛の展開によって忘れ去られていた。

「俺、敵倒せないわ」









始まりの森の魔神が思い出せませんでした、すみません…

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