死に神の遊戯

 沢山の神さまが、俺の前を行く。
 一本道を、ただ終着に向けて歩いて行く。
 どこが終着なんだろうか。俺の捜し人は?

「レイシ、平気か?」
「……ありがとう」

 時折こうして、神さまが俺のことを気遣ってくれる。
 俺って本当、何なんだろう。俺はなぜ存在しているのだろう。
 俺は、何者なんだろう?

「多分、もうじきグリムローパーが出る。……心の準備はいいか?」

 ヴァルキリーが近づいてきて、そっと言った。

「……ああ、」
『本当だな?』
「ッ!?」

 答えた瞬間、ヴァルキリーの周りの空間が歪み、グリムローパーが姿を現す。
 いや、姿を現すというよりは――"それ"は、グリムローパーだったのだ。
 グリムローパーの腕が俺を捕らえる。

「なっ、何で――」

 グリムローパーはいとも容易く俺を捕らえ、遥か上空へと連れ去る。
 なぜ触れても平気なんだろう、バリアだか何だかが、俺を守ってくれている筈じゃなかったのか?

「レイシ!」

 呼んでくれている神さまたちも、どんどん遠くなっていく――

「はっ放せよ!」
『いいのか、今放して?』
「ぐっ……喋んな……」
『おやおや、随分な言われようだ』

 グリムローパーの笑い声が耳元で響く。気分が悪い。
 それはグリムローパー自身がそういう特質を持っているのか、それとも俺の失くした記憶の方に鍵があるのか。
 ――まあ、今放されたら、俺は確実に死ぬな。
 ハロウィンの不気味な森の上空を、グリムローパーは悠々と飛んで行く。

『まだ何も思い出さないのか?』
「だから喋んなって……」
『くく……相当恨まれてるんだな』

 恨む?

『まあ、いい。着いたぞ、ほら』
「ッ!」

 グリムローパーは言って、断崖絶壁に俺を放り投げる。
 何なんだ、こいつ。

「何で、お前、平気なんだ……」
『平気? あぁ、あいつがお前に張ったバリアのことか……流石の私でも、無傷というわけにはいかなかったが』

 「というわけにはいかなかったが」、軽傷なのだろう、きっと。

「何で俺を……」
『さっきから質問の多い奴だな……まあいい、何も覚えていない可哀想なレイシくんに、教えてやろう』
「……名前を呼ぶな……」

 ただでさえも頭が痛くて、立ち上がれないというのに。

『だったら問わなければいい話だ。……私も魔神だ、お前にあまり解放されると不都合だからな』

 とにかくあいつに近づけさせるわけにはいかない、と言った。
 「あいつ」――俺と関係のある人。

「じゃあ殺せばいいだろ……っ」
『私もそうしたいのは山々だが、あいつがお前に与えたバリアは、特に私を拒むからな……悪いが、殺してやれない』

 なぜだ。
 だったら、さっきのように高い場所から落とすだけでもよかっただろうに。

『殺そうとすると、逆に私が殺されかねない。……お前もあの剣は、知っているだろう』
「剣……? って」
『残月の剣だ』

 ああ、俺を度々助けてくれたあの剣か。
 そういえばあの剣は、今どこにあるのだろう。
 気が付いたらなくなっていた、ケルト峡湾を出るくらいの時には、あったような気がするのだが。

『あれも腐っても神具だからな、私のことを殺したくてたまらないらしい――おっと、喋りすぎたな』

 グリムローパーは鎌を閃かせる。
 俺を置いてどこかへ行こうとしているのは分かった。

「どこに……?」
『私は、時間稼ぎだ。お前、あいつを解放するのに時間制限があるのは知っているか?』
「!」
『このタイミングで解放できなければ、また1年、ハロウィンが巡ってくるまで待つしかない』
「そんな――」
『親切な私は、更に忠告を与えよう』

 近づいてきて、グリムローパーは俺の耳元で囁く。

『そのタイムリミットは、明日だ』
「な――」
『さらばだ、もう二度と会うことのないよう』

 さながら死に神――グリムローパーは飛び去った。
 俺は立ち上がることができない。まるで、その最後の言葉が俺の足を地面に縫いつけてしまったかのように。
 遠くから、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

「明日……」

 明日までに、俺の捜し人を解放できなければ。
 また1年、待たなければならなくなるのか。








グリムローパーが好きすぎて補正が…

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