妖精との出会い

「……?」

 目覚めると、見覚えの無い場所に居た。身体を起こし、見回せば、辺りは森。木漏れ日が差し込んできていて、明るい。
 見下ろすと、自分が裸なことに気づいて慌てた。

「何か、着る物……」

 俺はとりあえず立ち上がり歩き出してみるが、森に服なんて落ちている筈もないと心の中では思っている。
 何で俺はこんな所に? しかも裸で。
 何かしただろうか、と考える。例えば酔っぱらったはずみとか――

「……俺は、誰だ?」

 そこまで考えて、気づいた。名前はレイシ。それは思い出せる。
 けれどそれ以上の情報が無い、これ以前の記憶が無い。
 ――俺は、何者なんだ?

「俺は誰で……どうしてここに……」

 その瞬間、何者かが迫ってくる気配を感じて、俺は草むらに身を隠した。
 現れたのは――妖精。

「……妖精?」
「大丈夫です、出てきてください。ナビィが服を持ってきました!」
「え、」

 確かにその小さな妖精が持っている白い布は服だった、――まさかあれ、俺のために?
 混乱しつつも、妖精は俺の存在に気づいているらしいので、観念した。
 妖精に悪い奴は居ない――

「な、何で妖精……? 俺、妖精なんて見えんのか……」
「ナビィが見えるんですね! 安心しました。さあ、この服を着て早く行きましょう!」
「は? ちょっと待て……行くって、どこに」
「勿論、この森に囚われているヴァルキリー様を助けに行くんですよ!」

 慌てて服を着る俺に、ナビィとかいう妖精は、綺麗な石を差し出した。

「これは……?」
「これは、解放石といいます。この石を集めると、神さまを解放できます」
「神さま」

 ……ファンタジーな世界だな。
 記憶も情報も無い以上、全てを信じるしかない。

「……なあ、ナビィ。俺が誰だか知ってるか?」
「あっ、まだ名前をお聞きしてませんでしたね! 私はナビィ。あなたは?」
「そういうことじゃなくて……」

 でも、ということは、ナビィは俺のことを知らないのか。
 妖精なら、何でも知っていそうなのに。

「……俺はレイシ」
「レイシさんですか! よろしくお願いします」

 ナビィは笑顔のまま続ける。

「レイシさん、凄く強い力を持っている気がしますよ。さては一般人じゃないですね?」
「……それは褒めてるのか?」
「勿論ですよ、普通の人間じゃ、神さまを解放するのは難しいですから」

 ねっ、と言われるが複雑だ。
 今、俺は何の記憶も持っていないから。

「――俺は、神さまを解放すればいいんだな?」
「あ、すみません、説明するのを忘れてましたね。今、神さまは魔神によって石に閉じ込められています。レイシさんには、神さまを解放していただきたいのです」

 レイシさん以外に頼れる人がいないんです、と言われた。

「よく、こんな素性の分からない奴に頼む気になったな。俺は魔神かもしれないんだぞ?」
「素性は分からなくたって、素質くらいわかります。この森に倒れていたのだって、運命に決まってます!」
「この森……ねぇ」
「さあ行きましょう、レイシさん! ヴァルキリーさまが待ってます!」

 説明もそこそこにナビィは先導し始めたので、俺は着いていかざるを得なかった。
 この世界のことは、まだ分からないことだらけなのだ――神さまたちが封印されてしまった世界ということか知らない。
 もしかしたら俺は、魔神かもしれない。記憶を失っているだけで。
 とにかく俺は、進まなければならない。

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