救済の序章 「ん……」 「あ、気が付きましたか!」 「ここは……」 割と穏やかに目が覚める。……あ、でも、頭が痛いな。 目の前にはナビィが居た。俺はぼーっとナビィを見つめる。 「ここはケルト峡湾ですよ。思い出せますか?」 「ケルト峡湾? ……あぁ……」 やってきて半日もしない内に、嫌な思い出が沢山出来た場所か。 「俺……クーフーリンと手合せして、モリガンと戦って、剣が折れて……えーと……」 「スカサハさまを解放して倒れたんです」 「……あー……」 言われてみればそんな気もする。 誰か、すごく露出度の高い人を見たような気がするのだ、意識を失う直前に。 「……で、今の状況は……?」 「レイシさんが倒れてたのは、多分、2、3時間くらいだと思います。神さまたちはその辺りに散歩しに行きました」 「……いいのかそれで……」 俺は何とか起き上がる。 「大丈夫ですか?」 「あー……まあ、本調子とは言えないけど、歩くくらいなら何とか」 「……誰も支えてあげられないので、回復するまで休んでも大丈夫ですよ」 そうだよなあ、確かにそうなんだよなあ、俺が倒れそうになった時、誰かが気づいても、どうしようもない。 そのバリアみたいのが一体どういうものなのか、本人には皆目見当も付かないんだが、どうやら無害ではないらしいな、ジークフリートを見る限り。 神さまがそういうのを、見て見ぬ振りをできるような人たちだったらよかったんだが。 「……朝になったら出発で、いいか?」 「はい、勿論」 俺はナビィの言葉に甘えて、もう一眠りすることにした。 確かに歩くことはできるかもしれないが、解放できるかどうかはちょっと自信がない。 俺は傍に敷いてあったブルーシートの上で、毛布を被って寝た。 朝、日差しが差し込んできて、俺は自然に目が覚めた。 「ん……?」 久しぶりの、爽快感。俺はゆっくりと起き上がり、伸びをする。 体力は回復したようだった。 「……って、皆寝てんのか」 神さまも寝るのか。俺の周りで思い思いに寝ている神さまを眺める。 ――見張りはまた、ジークフリートなのだろうか。相変わらず彼の姿が見えない。 「……レイシ」 「うわっ!?」 突然背後から声を掛けられる。 大声を出して神さまを起こしそうになったのは許してほしい、流石に驚くだろう。 振り返ると、そこにはモリガンが居た。 「モリガン……心臓に悪い……」 「あの……その、剣とか、色々。……ごめんなさい」 「えっ?」 俺は呆気にとられる。 「私、本当はあんなこと……するべきじゃなかった……」 「……ああ、そのことか」 昨日の話だ。 そういえば剣はどこにあるのだろうか。 「いいよ、もう。モリガンの気持ちを知らなかった俺も悪かった。……ただ、あいつの態度だけは、俺にも如何ともし難いからな」 「……うん」 「そこだけは恨まないでくれよ、まあ剣に関しては仕方ないからな、元々ヒビも入ってたし」 モリガンの表情が曇る。 「剣……大切な物、だったんだよね……?」 「ああ、まあ、でも俺の物じゃないしな。神具だと思うんだ。だから俺はこれの持ち主を探してる」 「……」 「だから俺に謝っても仕方ないっちゃ仕方ない。一緒に来てくれるだろ? モリガン」 「……うん」 俺がそう言うと、モリガンは漸く笑ってくれた。 ――ああ、うん。そっちの方が、可愛い。 「……おはようございます……」 「あ、ナビィ。漸く起きたか」 「レイシさん、早起きですね……」 「お陰さまで」 十分寝かせてもらった。今度こそ出かけられる。 「おーい皆、朝だぞー。早く起きないと置いてくからなーっ」 「ん……」 「モリガン、ナビィ、一緒に朝飯食べに行こうぜ、こいつら寝ぼけてるし」 「……うん」 モリガンは一瞬クーフーリンに視線を投げた、が、結局俺に着いてきた。 「で、今日はどこに行くんだ? ナビィ」 「そうですね、ちょっと考えたんですけど、たまに息抜きもいいかなと思いまして」 「息抜き?」 「はい」 ハロウィンパーティーなんてどうですか、と言われた。 不意に足が止まる。 「……どうしたの? レイシ……」 嫌な予感がする。嫌な。嫌な。 雪の森で目覚めた時の、夢の内容を思い出す、今更になって、鮮明に思い出せる。 そうか――あの夢は、ハロウィンの夢だったのか。 「俺……嫌な予感がする……」 「え?」 「もしかしたらそこに……」 そこに、居るのかもしれない。 「俺の捜し人が、居るかもしれない」 そんな気がしてならないんだ。 ようやく本題! 戻る |