ちょっとした受難 凍った道を歩いていくと、だんだん茶色い地面が見えてきた。 もう白い世界には飽きてきたところだ、俺は安堵する。 「あっ、早速メイヴです!」 「あれが1つめの解放石を持っている魔神か!」 神さまが大量に、メイヴと呼ばれた魔神へ向かっていく――甘い匂いをさせていたメイヴは、その様子を見て一目散に逃げ出した。 俺はぼーっとその様子を見ていた、が、俺も移動しないと、いつか神さまが追跡できなくなってしまうかもしれないのか。 「ちょっ、メイヴ早っ……!」 俺の後ろを悠々と着いてくるのはナビィとバステト。今度は俺をはぐれさせない作戦らしい。 だがバステトで大丈夫なのだろうか……。ただでさえもサボり癖のあるにゃんこなのに。 「レイシ、遅いニャ! このままだとメイヴを見失ってしまうニャ!」 「分かってるって……!」 だから身体が追いつかない、これ前も思った気がする。やっぱ年か。 「も、走れな……っ」 「レイシ、解放石を3つ手に入れたぞ!」 「え!?」 クリシュナが一番に戻ってくる、その手には3つの解放石。 ……それ全部、メイヴから? 「今の短時間で、そんなに……」 メイヴが可哀想になってきた。 「レイシさん、早速解放してください!」 「あ、あぁ……」 若干疲れてはいるが、雪の森の感じだと、割と平気だと思う。 クリシュナから受け取り、俺は一人目を解放した。 「んー……漸く出られた!」 「クーフーリン!」 「……あ、モリガンは?」 クーフーリン、と呼ばれた神さまは、何かに怯えているらしかった。 「モリガンさまはまだ解放していません。これからです」 「これからか……あ、君が俺を解放してくれたのか? サンキュー!」 俺クーフーリン、と手を差し出された、が、俺には握り返す術もない。 俺が何も言えないでいる内に、周りがフォローしてくれた。 「クーフーリン、彼に触るととんでもないことになるぞ」 「とんでもないこと……? 何だよヴァルキリー、いきなり」 「その通りだ。触れない方がいい」 「何だよジークフリートまで」 ……そういや俺、今朝、ジークフリートと事故ったんだっけか。大丈夫だったろうか。 「まあでも、本当にそういうわけなんだ。俺に触れるとあんまりロクなことにならないから気を付けた方がいいと思う。あ、俺、レイシな」 「……分かったよ、本人が言うんならそうなんだろうな。よろしくな、レイシ」 クーフーリンの笑顔は爽やかだった。 「なあ、レイシって強いの?」 「え? 強い……いや、強くはないけど」 「何だ、そっか」 こんなに神引き連れてるから、強いのかと思った、と言われる。 「まあ最初だけはさ、俺も魔神倒したけど、それ以外は、怖くて……」 「怖い? 何で」 「だって、命を奪うんだろ」 いつの間にか周りの神さまたちは散開していた。 何も言わずとも分かってくれる。多分、あと2人ぶんの解放石が集まるのも時間の問題だろう。 「ああ、そうか」 クーフーリンは、納得したような声をあげる。 「でも、だったら、強いかもしれないんだな? じゃあ俺と手合せしようぜ!」 「は? 何をいきなり――」 「皆が解放石集めるまででもいいからさ、ほら、早く」 言うなり彼は槍を持った、どうやらこれは避けられぬ戦いらしい。 仕方なく俺も背中に預けていた剣を取る。 ――あ、名前、忘れてた。 「なあ、クーフーリン。その槍の名前、何て言うんだ?」 「これ? ゲイボルグだけど」 「ふーん……」 やはり、名前があるのか。 何となく感心しつつ、先手は俺が取った。 「……なんか俺、強くなってる気がする」 「素人相手にして何言ってんだよ」 「レイシ素人じゃないだろ絶対」 手合せは終わった。当然クーフーリンの勝ち。 草の上に寝転がる俺の傍に彼はやってきて、そんなことを言った。 「でも、変だな。解放石のお陰で力が増幅したわけでもないだろうしな。中に居る間に特別なことしてたってわけでもないし」 「重力の関係とかそういうことなんじゃないのか? 石の中がどうなってるのか俺は知らないが」 「うーん……?」 そういうことじゃない気がするんだよなあ、とクーフーリンは呟くが、俺は知らん。 「つ……疲れた……」 「レイシさん!」 そうこうしている内に、皆が戻ってきた。 この状況を見て、何があったのかと思ったのかもしれない。 「どうしたんですか! 大丈夫ですか?」 「あぁ……ちょっと、クーフーリンと手合せをしてた」 「手合せ……」 雪の森で解放した双子の姉妹、フレイとフレイヤが溜息をついた。 「気を付けてね、クーフーリン」 「レイシは神を解放する時に、すごく体力が必要らしいから」 「そうなのか?」 クーフーリンは俺の方をじっと見てくる。 「じゃ、もしかしたら、俺はレイシの力を貰ったのかも……?」 「馬鹿なこと言うなよ。ナビィ」 俺は起き上がり、ナビィから解放石を受け取った。 これは誰の解放石だろうか。クーフーリンが恐れているモリガンとかいう神さまか、それとも別の? クーフーリンが少々俺の方から離れた。 「――ここ、は?」 現れたのは、白い服を着た可愛らしい少女だった。 「モリガン……!」 クーフーリンの、叫びにも似た声が聞こえる。 ……この子が? 戻る |