そして吹雪は止んだ

「おい、レイシ! 起きろっ!」
「……っ!」

 大きな声と共に肩を揺さぶられ、俺は覚醒する。
 何だか嫌な夢を見た気がする――
 跳ね起きると、頭が丁度誰かとぶつかった。

「――ッ!!」

 声も出せない。全身の痛みが蘇ってきた。

「おはようございます、レイシさん。あ、レイシさんに触れられた感想はどうですか?」
「……っ」
「声も出せない程悶絶しているみたいですね」
「あ……トト……?」

 涙目になりながら見上げると、そこにはトト。
 ……と、もう一人、悶絶しているらしいジークフリートも。

「どうでしたか、昨夜は何もありませんでしたか?」
「何も……って、どういう意味」
「私たちがここに辿り着いたのは、結局朝になりかけの頃でしたから。何かあったんじゃないかと心配で心配で……」
「その何かがどういう意味か分からんが、まあとりあえず何もなかった、あぁでも、ジークフリートには世話になったな」
「その辺りは後で彼から詳しく聞いておきますね」

 どうやらトトは何かを誤解しているらしかったが、その誤解を解く術を俺は持ってないので、その辺りについては口を噤んでおくことにした。

「そこでレイシさん、早速ですが、3人分の解放石です」
「お、おぉ」
「お願いしますね」

 そう言ってトトは無理矢理解放石を押し付けてきた、俺の手に触れた時点で石は発熱・発光し、神さまが現れる。
 どうやら解放自体は、俺の意思とは関係なく行われるものらしい。俺の手が触れることがきっかけとなるのは確かだが。
 ここはテントの中でお世辞にも広いとは言えなかった、だからここで解放したくはなかったのだが。

「……遅い」
「遅いよ」
「おぉ、漸く出られたか」

 双子、おっさん、おっさん。……まあ今更か。
 よし、説明は割愛しよう。俺は早速立ち上がる。

「あっとっと、剣持ってかなきゃ」

 危うく剣を忘れかける、またフェンリルの時みたいになっては困る。
 今度こそ、剣はそこにあった。
 消える時と消えない時、そこにはどんな違いがあるのだろう?
 始まりの森の時は、目を一瞬離しただけで跡形もなく消え去ってしまった。
 しかし今や、日本神社で眠った時は、傍らにあった。
 どういうことなのだろう?

「ナビィ、おはよう。次はどこだ?」
「あっおはようございますレイシさん! お身体の調子はどうですか?」
「ああ、ジークフリートのお陰で、大分元気」
「そうですか」

 変な笑顔でナビィが答える。……俺、何か言ったか?

「あっ次はケルト峡湾ですよ!」
「峡湾? って……」
「俗にいうフィヨルドですね」
「分からん」

 後でこっそり、トトが、とにかく狭くて深い谷なのだと教えてくれた。成る程。

「すっかり吹雪も止んで、歩きやすくなったな」
「もう本当、レイシさんが居なくなった時はどうしようかと思いました!」
「え、俺だけ?」
「神さまは皆一緒に居たんですよ。ナビィも、レイシさんの速度を考えてなかったんですが、いつの間にか置いてっちゃってたみたいですね……」
「まあな、寒さに凍える徒歩と全く関係ない神さまじゃな……」

 雪の影響も受けないんだろうか。神さまってやつはとにかく謎が多すぎる。

「よし、ケルト峡湾に行こう!」

 雪の森が早々に終わったからなのかは分からないが、足取りが軽かった。
 3人も解放した後だとは自分でもとても思えなかった。






おっさん神さまを書き分ける自信がないです…

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