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 結論から言うと、しかし、凶行はやまなかった。

 『凶行』と言うしかない無差別ぶり。企業の大小を問わない。
 何故マスコミに『レイシ』の名が流れていて判明しないのだろう、と静雄はここ最近、テレビを見ながら思う。
 そしてそれは非常に大変な事だ。
 一応本人から「やめる気はない」の言葉を聞いていても、それは自分しか知らないのだ。
 ――このままだと、世界のバランスが、崩れてしまう。
 静雄は立て込む仕事を片付け、ある夜、珍しく池袋を出た。






 向かったのは新宿。此処に多分、今回の惨事の元凶が居る。
 自分が干渉するなど、本当に嫌なことではあるが――奴とは出来る限り、顔を合わせたくない――このままでは非常に困るのだ。
 自分の友人には静かに暮らしてほしいと、静雄は思う。
 危険な職業などやめてほしい。普通に幸せに、暮らしてほしい。
 ――けれどそれは、突然起こる、激しい頭痛に阻まれているらしい。
 突発的に起こる彼の頭痛は、時に自殺願望をも催させる程だった。

(――だからって、あれ以外の生き方がないわけじゃないだろう)

 静雄はそう思いながら、チャイムを鳴らした。



「……手前は、澪士が死んだのを見たのか?」
「だから確認したって、何回も言ってるでしょ」

 苛々と煙草をふかす静雄に、臨也も苛立ちを抑えない。
 それは自分の部屋で煙草を吸っている事になのか、突っ込んだ事を訊かれているからなのかは、分からなかった。

「でも、死ぬ瞬間を見たわけじゃないんだろ?」
「……何が言いたいの?」
「つまり」

 臨也は、帰ってきた時には既に、彼は死んでいたと言った。
 しかしそれだけならば、まだ最後の望みは絶たれてはいない。
 ――実際、そのまま望みは繋がっていると、信じている。
 そうでなければ、静雄も、此処まで来た意味が無いのだ。

「それは、澪士じゃないかもしれねぇ、って事だ」

 臨也はそれを聞くと、黙って部屋に通した。
 そこはただベッドが在るだけの部屋、そしてその上に澪士が眠っているだけ。
 静雄は初めて2人の生活を垣間見て、それから嫌になった。

「――確認したのか?」
「……してないよ」

 再度の問いに、今度は答えを変える。
 望みは絶たれてはいない。彼はもしかしたら、彼でないかもしれない。
 澪士は自殺未遂を繰り返しながら、それでも死ぬ事を望んではいなかった。
 ――彼が、自ら命を絶つだろうか? しかも、外傷もないのに?
 静雄は信じていた。彼がまだ、どこかで生きている事を――。

「だって、澪士が本当に死んじゃってたら、俺……」

 澪士も臨也も、きっと被害者で。
 これでもし澪士が澪士だったら、その時は諦めよう。
 静雄は覚悟を決めた。彼を暴く覚悟を。
 ぎゅっと腕に力を込め、そして―――






「――えっ、何、もう良いって?」

 いつものように携帯の充電器を引っ張りながら、彼は叫ぶ。

「え、あ、まぁ、クライアントのお願いならやめるけど……何、別の依頼?」

 白衣の胸ポケットにさしていたペンを出し、積まさった紙の中からメモ用紙を取り出した。
 多分、その山のような机の中身は、彼にしか分からないだろう。

「……はぁ、まあ可能です。大丈夫だよ」

 サラサラと何事かを書き込んでいく。相変わらず達筆な字だ。
 その後も何言か話した後、彼は携帯を耳から離した。

「……まぁ、お金が貰えるなら良いかぁ」

 常に点いているパソコンのマウスをいじる。
 その目はすっかり充血していたが、瞬きもせずに画面を見つめた。
 その後何度かいじると、彼は口角を持ち上げ、不敵に笑う。

「――彼は、これが欲しかったのかな」

 画面に映し出された『人』に向かって、話しかけた。




















2010-10/16
(俺に出来ない事はないけれどね)
(――頭痛がなければ)


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