仕事完了 |
仕事、完了。 1週間前、クライアントに依頼された仕事を終え、その形のよい唇に笑みを浮かべる青年。 「……もしもし? えぇ、俺です。はい、仕事が完了致しました」 携帯電話の向こうから、屈託のない笑い声が聞こえる。 「続けて、ですか? はぁ、少々お待ち下さい」 青年は乱雑に物の積まれた机の上から、筆記用具を引っ張り出した。 メモにボールペンでさらさらと何かを書いていく。 (字は色々な意味で達筆だった。多分本人にしか読めないだろう。個性的な字だ) 「ふん、ふん……了解しました。――え、何、タメでいいって? でもクライアントは大切な――」 そこまで言って、遮られたのか、黙る。 「……分かった。あなたとは他人な気がしないし。仕方ないね」 青年が折れた。 唇には苦笑が宿っている。 「ではそっちは3日後、もう1つの方はその更に4日後で。2つとも無事に完了したら連絡するよ」 ――砕けた口調なんて、懐かしいな。 青年は挿しっぱなしの充電器が届く辺りに携帯を置く。 そしてメモを見ながら、パソコンを多少いじった。 「……変なクライアントなんて、世界には沢山、居るけどね」 そのどれとも違う種類だ、さっきのクライアントは。 青年は溜息と共に思った。 「さて、仕事は終わったし、静雄と外食でもしますか」 携帯を充電器から抜き、電話の呼び出し音を鳴らしながらバスルームへ向かう。 「……怪我は?」 「え?」 いつものレストランで2人は落ち合う。 彼が時間にルーズな人だというのはとうの昔に分かっている事なので、静雄は待ち合わせ時間の10分後に来ていた。 (それでも静雄の方が早かった。) 「怪我?」 「この間俺が家に行った時、包帯巻いてたろ」 「……あぁ、あれ」 あれは怪我じゃないよん、と笑う。 「……は?」 「静雄を騙せるなら大丈夫かな。ほら、俺の仕事って面倒くさいから、たまに断りたい仕事もあるわけ」 「――あぁ」 つまり、包帯を巻く事で怪我をしているように見せかけ、請けたくない仕事は断るというわけだ。 確かに包帯の解かれた手に、おかしなところは何も見付からない。 「で、その依頼の金が、余っているというわけなのだよ。……あ、この後家来る?」 「は?」 彼はナイフとフォークを手にしながら首を傾げる。 「静雄になら今の仕事の内容、見せてもいいかと思うんだ。静雄はホラ、口かたいし」 そういう問題でもないよな、と考える静雄。 「守秘義務って辛いからさー。ま、こんな仕事だから仕方ないんだけど。静雄も最近の俺の仕事、気にならない?」 「まぁそりゃ、気になるけどよ……」 「じゃあ決まりね!」 そもそも静雄は、彼に、仕事について問い質しに来たのだった。 今のマスコミの情報は、早い。静雄は正直驚きを隠せないでいた。 今、友人に真偽を問い質すところだ。静雄の知る限り、そんな事をやらかす人物は1人しか居ない。 最も、マスコミ嫌いの本人が、どこまで漏れているのを知っているかは謎だが……。 「早く食べ終わってよ、静雄」 彼は空になった皿を片付けながら、静雄を急かした。 10-9/25 (ねー俺が酔っ払ったら困る?) (……困る) (えー) 前頁│次頁 |