モツ鍋

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「あれぇ、静雄、久しぶり!」

 何の躊躇いもなく、自宅でない家のドアノブを回した静雄。
 開けた瞬間、よい匂いが漂ってきたのは彼は料理ができるという証拠だろう。

「あぁ、久しぶりだな」
「何だよ、来るなら先に言ってくれればいいのに」

 対する彼も大して不審感を抱いてはいないようで、普通に応対する。
 静雄の分のご飯は用意してないんだけどと簡素な食事を調えながら彼は言った。

「いや、どうせお前は仕事中だろうと思ったからよ、色々買ってきたんだが……」
「はは。そうなんだ」

 残念ながら俺、今はお仕事お休み中だから。
 仰々しく包帯の巻かれた手をひらひらと振ると、静雄は眉をひそめる。

「……まぁでも、仕事ないんなら大丈夫だよな? ちょっと付き合えよ」
「うん」

 コンビニの袋から、ビールとサワーの缶を出す。
 おぉっと感嘆の声を上げた彼に、静雄は迷う事なくビールを差し出した。




「……へぇ、情報屋さんかぁ」

 静雄が今日の事を話していると、彼はビールを煽りながら呟く。

「確かに面倒くさそうな人だ。愛する人を奪われた苦しみを、どこに復讐するって?」
「さァな」

 そこまでは知らねぇよ、と吐き捨てると彼はまた興味がなさそうに。
 自分から出した話題ではあったのだが、静雄は気分が悪くなる。

「世の中には物好きな人も居るもんだね」

 ――死んだ人のこと、まだ好きなんだ。それはご苦労なことだ。
 ちらりと、『仕事』に必要な情報が彼の脳裏をよぎる。

「……静雄は、そんな風に思う人は居ないの?」
「あ?」
「例えばその子のこととか」

 それは言わずもがな、臨也が愛した少年の事を指しているのだと静雄は気付いた。

「……あいつの事は、俺も嫌いじゃなかったけどな。でも……」

 ……俺が手を伸ばすには、少し、眩しすぎたんだよ。
 きっと壊してしまいそうな程、綺麗な人だったのだろうと彼は思う。
 興味が出てきた。

「俺、1回その情報屋さんと会って話してみたいなぁ」
「……は?」
「そこまで静雄の気分を悪くさせるような人、1人を一途に思い続ける人、本当のその人が全然分からないじゃん」

 ――そう笑う姿は、その『彼』に似ていなくもないと、静雄は常々思う。
 彼は臨也と似たような仕事をしているのに、2人は殆ど関わった事はなくて、――今2人が出会ったら、一体どうなるのだろう?
 失われた恋人に似た彼を愛すのか、それとも。

「あいつはやめとけ。出会った事を後悔するぞ」
「またまたぁ〜」

 くすりと彼は笑う。

「静雄だって、その人のこと、満更でもないくせに……ね」


















10-9/5
(静雄、今日は泊まってく?)
(いや、明日も朝早ぇから……)
(そう……残念だなぁ)

名前変換がないという罠


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