歯車は回る

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「やぁシズちゃん、久しぶり」
「臨也ァ……」

 久々に池袋に姿を見せた折原臨也は、いつものように手を上げて言う。
 対する平和島静雄は、持っていた標識の標的を臨也に変えただけだった。

「1ヶ月ぶりだっていうのに……」
「そんな事は関係ない!」

 臨也、手前殺す! と言う静雄に、今日は澪士の話をしに来たんだけど、と臨也は言った。
 ――彼自身が間に居なくとも、その名を出すだけで、2人の不快さは霧散する。
 未だに大きな力を持った人物だった。

「……15分」
「え?」

 力を振るうのをやめた静雄は、臨也を睨み付ける。

「15分なら付き合ってやる。澪士の話限定でな」

 一瞬ののち、くすりと笑うと、臨也はそれを承諾した。



「……手前は未だ、澪士を忘れらんねぇのか」

 当たり前でしょ? と臨也が返すと、静雄は苦い顔をして黙り込む。

「……忘れられないでしょ、あんな死に方されちゃあ」

 臨也が澪士を忘れられないのは、ただ単にそういう話でもないと静雄は思ったのだが、結局何も言わない事にする。
 ――彼自身の問題だ、彼はいずれ、自分で答えを見つけるだろう。
 静雄はそう思った。

「――でも確かに、不自然だったよな」
「でしょ?」

 気付いたら、彼の呼吸が止まっていた、と。
 臨也が初めてそう言った時、当然の事ながら静雄は全く信じなかった。
 今まで何度も自殺未遂を繰り返してきた澪士、しかし、死に至った事は一度もない。
 なんだかんだで臨也を慕っているのだ、仕方ない、と静雄は解釈していたのだが。
 ――こうもあっさり死なれると驚きだ。

「……まだ、澪士はさ、俺の家に居るんだよね、ちゃんと」
「……は?」

 臨也がぽつりと呟く。

「澪士はさ……あんなに死ぬの、怖がってたのに……死ぬなんて、有り得ない」

 静雄は顔を歪めた。
 静雄は知らない――死んだ澪士を見た事がないから。
 臨也は澪士を閉じ込める様に、その後澪士の姿を誰にも見せる事がなかった。
 当然ながら葬式は行っていないし、それ以前の云々もない。
 だから――一縷の望みを賭けるならば、澪士はまだ、死んでいないかもしれない。
 静雄は、いや静雄だけでなく臨也も、そう思っていた。

「……死んでねぇかもしれねぇだろ」
「何言ってんの……俺だって、何回も確認したよ」

 ――それも、そうだ。
 自分の最愛の人が死んだのなら。
 しかしそれなら弔ってやろうと、思うのが普通ではないのか?

「……そうそう。俺、こんな事言いに来たんじゃなかった」
「あ?」

 もうそろそろ約束の15分だね、と言って臨也が立ち上がる。

「俺……復讐するから」

 静雄は何も言わなかった。

「澪士を奪った奴らに。片端から潰してやる。苦しみを味わわせるから……シズちゃんは、邪魔しないでね?」
「……あぁ」

 静雄が頷いたのは、臨也のその雰囲気におされたからではない。
 ただ、澪士を奪われたその悲しみが、どうしようもなかったからだ。
 復讐……とは少し、意味合いは違うのだろうが。

「じゃあねシズちゃん」

 そう言いながら、池袋の雑踏に紛れた臨也を、静雄はじっと見ていた。




















10-9/1
(……そうだ、今日は)
(あいつの所に寄っていこう)

歯車は回り始める


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