今、此処に在ること |
目が覚めて、自分の身体が此処に在るか確かめる。 正確には、隣に臨也が居るかどうかという事なのだが――どうやら、いつもの場所みたいだ。 臨也には一度も言った事がないが、澪士は毎日それをしていた。 その腕が自分の腰に巻き付いている事もあれば、頭の下に敷いてしまっている事もある。 また寝相が悪い日であれば、離れている時もあったりして。 「……臨也」 「……ん」 寂しい、と漏らした日から、臨也は朝は澪士が起きるまでは家に居るようにしている。 愛されている。それは分かる。嬉しい事だ。 ――しかし、それではいけないんじゃないかという想いが、最近澪士の中で生まれつつあって。 「……お早う、澪」 「おはよう」 いつの間にか臨也は、澪士の事を澪と呼ぶようになった。 それがどれだけ懐かしいものか――かつて、いや今も双子の弟が呼んでいるものだが。 その理由を問えば、少しでも特別になりたいのだと言っていた。 「臨也、今日、お仕事は?」 「……ないよ」 「お休み?」 「うん」 だから、どこか出掛けようか、と。 臨也が笑んで提案する前に、澪士は臨也に抱き着いていた。 目が覚めて、自分の身体が此処に在るか確かめる。 正確には、隣に澪士が居るかどうかという事なのだが――どうやら、いつもの場所みたいだ。 ほっとする。安堵する。心から。 もう二度と手を離しはしない、と臨也は思う。 「……澪」 もうあの時のような絶望は味わいたくない。今度こそ世界は死に絶えるだろう。 臨也は澪士の髪を優しく梳いた。 「ん……」 ――そうだ、昨夜は無理させすぎたんだっけ。じゃあ今は寝かせてあげなきゃ。 思い出して、臨也は笑った。 「……幸せだね、澪士」 当然のように名前を呼んで、帰ってきたら笑って、疲れるまで繋がって。 一緒に居たら当然の事なのに、今は幸せだと思える。 臨也は不本意ながら感謝していた。 「……ずっと、続けばいいのにね」 澪、と親愛を込めて。 額に口付けて、それから、臨也も目を閉じた。 彼が隣に居てくれるのなら、寝過ぎるのも悪くはないと。 10-11/23 幸せは、長くは続かない それでも、僕らは…… 前頁│次頁 |