ハッカーと情報屋

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「……じゃあ、改めて、自己紹介を」

 静雄の隣に座っている青年が、にっこりと笑った。

「ところでその前に、確認したい事があるんだけどいいかな?」
「何?」

 臨也は出されたコーヒーを飲みながら聞く。

「澪士君は何処に居るんでしょうか」
「……あぁ」

 納得したような声。しかし表情は疑い切っている。

「病院……だね」
「あの闇医者さんの所ですか」
「よく知ってるね」

 『知る』のが俺の仕事だから、と。
 それにしても知り過ぎている――仕事にはまるで関係がなかったのに。
 やはり身辺調査をするのか、と臨也が思った矢先。

「俺の名前は零」
「……零?」
「あなたのだぁい好きな、澪士君の双子の弟です」

 臨也は一瞬、カップを取り落としそうになった。
 ……澪士に、弟が居たって? 聞いてないよ。
 しかし静雄が驚かずに、まるで当然のような顔をしていた為に、臨也も何とか平静を取り戻す。

「……シズちゃんは、知ってたわけ」
「……まぁ」

 俺が先に会ったのは零だったからな、澪士を見てぴんと来たんだよ。
 煙草をふかしながら言う静雄に、臨也は苛立ちを深める。

「……闇医者さんの家に、連れて行ってくれないかな」
「え?」
「それか、澪を此処に連れてきてくれても良いんだけど」

 澪。
 それは、親しい者にしか呼ぶ事を許されない、特別な名前のようで。
 弟に対して嫉妬を抱いてしまったのを、臨也は少しだけ恥じた。

「……それは、難しいかな」
「どうして?」

 零は笑顔を引っ込めずに答える。

「澪士はずっと、捕まってたんだし。せめてもう2、3日は」
「澪が酷い頭痛に悩まされてもいいわけ?」
「は?」

 零は言った。
 額に脂汗が浮くのを、臨也は黙って見ていた。

「俺達ね……あまり、離れ過ぎると頭痛が起きるわけ。それも酷く……だから、一刻でも早く、澪の元に行きたいわけ」

 分かった? 連れてってくれる? オニイサン。
 ぐらりと揺れた身体を、静雄が慌てて支えた。
 その浅い呼吸から――どうやら、それが嘘ではないらしいと分かる。

「……君の頭痛がそんなに酷いって事は、澪士も大変な事になってるって事かな」
「それは、もち」

 その返答を聞くやいなや、臨也は立ち上がる。
 零の家を勝手知ったるように歩き始め待たずにさっさと玄関を出てしまった。

「……静雄」
「ん?」

 臨也の背中を見送り、零はそっと囁く。

「……やっぱり情報屋さん、いい人だよ」





















10-11/7
嫉妬、でも君の事を想うのをやめられない


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