色付く |
「シズちゃん」 いつもより足取りが軽やかなのは、数日前の出来事の所為かもしれない。 ――俺にも、分からない。彼が生きているかもしれない、からかな? 今まで死んだのだとばかり思っていた愛しい人が、本当は生きていたなんて。 「あぁ?」 「澪士の居場所、分かったよ」 いつものように、標識を持ったまま、彼は不機嫌だけを露わにしながら振り返る。 けれど今の俺は、シズちゃんにも何の嫌悪も抱かない。 「!」 「シズちゃんも澪士の事、心配でしょ」 「そりゃあ……」 一瞬、瞳が迷いに揺らいだのは何故だろう。 「ここ」 携帯を出す。そこには既に、『情報屋』から送られてきたメールが表示されている筈だ。 ――そのメールが来たのは、つい数時間前だった。 優秀な『彼』の事だから、もう少し早く情報が来ると思っていたんだけど。 それ程までに、機密情報なのだろう。 「澪士は生きてんのか?」 「多分ね。だから助けに行くんでしょ」 シズちゃんも、来る? そんな事、普段の俺ならば絶対に口にしない。 「何で」 理由? そんなもの、決まってるじゃん。 「俺、死にたくないし」 澪士が生きていると分かった今(確定ではないけれど)、俺が死ぬ必要と理由はどこにもない。意味もない。 澪士が居ないのならば、死んでも良かった。それに何の支障もなかった。 「手前は……」 「別に良いけど。澪士に、シズちゃんは心配してなかったって伝えとくから」 「!」 シズちゃんに背を向けた。別に、これで来なくても何の問題もない。 俺1人で澪士を迎えに行く事に異存などある筈もないし、問題だってない。 何故って? 俺は強いから。 「……行く」 澪士の為ならどこまでも強くなれるけれど。 ――俺は薄く笑いながら、振り返った。 「そう」 俺は着いてくるように言って、先を少し早めに歩きだした。 隔離されたセカイ。人の入り込まない場所。 ――此処ならば確かに、澪士が居てもおかしくはない。 「それにしても、澪士ってそんなに凄い人だったんだね」 俺は知らなかったけれど。 「良いから早く行け」 「はいはい」 どうやらシズちゃんは、俺と一緒に居たくはないらしい。 まぁそれは俺も同感だ。一刻も早くその存在を消し去りたい。 「――それにしても、此処は――」 澪士が居るには相応しくない場所だと思う。いや、何処でもそうだ。俺の隣以外。 彼をこんな場所に置くなんて、考えた奴は最低だ。分かり次第最上の方法で潰してやる。 どんな方法が良いかな……。 そんな事を考えながら、俺は堂々と進んでいった。 すると。 「……ここ、かな?」 「早いな」 多分、この部屋に澪士が居る。一番お金のかかってそうな部屋だから。 扉に掛けられた何重ものロックはいとも簡単に解いて(ちょっと考えれば分かるものだった)、俺は入る。 ――彼の姿を見つけた瞬間、走った。 「澪士!」 腕、首、足に鎖が這う姿。 壁にもたれたまま、暫く、そこで生活していた事が伺える。 「澪士……?」 全く反応が無い事に、不安を覚えた。 「……寝てるだけだろ」 「……そ……っか」 シズちゃんに言われ、漸く、たったそれだけだと気付いた。 そうか……澪士は、眠っているだけ。きっとこんな世界に隔離されていて、辛かったのだろう。 「帰りは、シズちゃんが先に歩いて行っていいよ」 「何でだよ」 「俺が澪士を連れて行くから」 シズちゃんによって、鉄の戒めが解かれた澪士を抱き上げる。 そうだな、新羅の所には早く行くべきだろう……澪士の健康状態に何も影響がないと良いけど。 澪士が居ない間に色々な事が変わったんだよ? 教えてあげなきゃね。 ……でも、今は。 「無事で良かった……澪士……!」 心の中でそっと、涙を流した。 10-10/31 再び、色付いた世界 前頁│次頁 |