二次試験に合格したのは、43名。
ゆで卵の試験は、飛び下りて戻ってくるだけだから、スシより大分難易度は低かった。
ぎーちゃんも、ゴンも、キルア君も、皆合格できたようだった。
「ねぇひーちゃん、これから暫く自由行動だよ? ねぇねぇ、何しよっか!」
「……飛行船の探検なら、1人で行っておいでよ◆」
「え、何で?」
言うなり、ひーちゃんは飛行船の片隅の床に座る。
「ボクがいない方が、きっとカナちゃんには好都合だよ◆」
「え? あー……確かに、ひーちゃんを警戒ってか、狙ってる人多いよね」
「……狙ってるっていうの、やめてくれるかな◆」
「何で?」
俺の問いには答えず、ひーちゃんは続ける。
「きっとカナちゃんなら、仲良くなれるよ◆」
「え? 誰と?」
「ギタラクルの代わりに◆」
首を捻る。……もう。ひーちゃんの言い方は分かりづらい。
もっとはっきり言ってくれればいいのにといつも思う。
……まぁ、飛行船を探検する意思がないのは、よく分かったけどね……。
「うーん、分かった。じゃあ、飛行船の探検は、俺が1人で行ってくる!」
「行ってらっしゃい◆」
いつものように、ひーちゃんは感情を見せない表情で笑ったから、俺は触れるだけのキスをする。
「何かあったら大声で呼ぶから、ひーちゃん、トランプ立ててないで俺の所来てね!」
「……分かったよ◆」
「絶対だから!」
俺は手を振りながら、るんるんと飛行船の探検を始めた。
「あれ……お前、44番と一緒に居た奴じゃん」
「ん?」
俺は飛行船で、早速ゴンとキルア君に出会う。
飛行船とは不思議なもので――中庭まであるらしい。俺の想像の及ばない領域だ。
「あ、君たち、ゴンとキルア君だね」
「……キルア“君”?」
俺が言うと、キルア君は心底嫌そうな顔をした。
「え――名前、間違った?」
「いや、名前は合ってるけど……その、“君”っての、やめない?」
「どうして?」
キルア君はばつが悪そうに頭を掻く。
「俺……“君”なんてキャラじゃないし」
「ん? そうなの? でもさ――」
そこまで言って。
そういや、キルア君の兄さんがハンター試験に参加していることは、内緒だったのだと思い出した。
俺は首を横に振る。
「――じゃあ、あーちゃん」
「……は?」
「キルア君、が嫌ならあーちゃん」
「いや、何でだよ! ゴンのことは普通に呼んでただろ!」
「や、何でかな? ゴンは、俺、ゴンちゃんくらいしか思い付かないや」
「……“俺”?」
「あーちゃんでいいんじゃない? キルア。面白いし、間違えないよね」
「あ、ゴンもそう思う?」
「ちょっと待て!」
キルア君改めあーちゃんが叫ぶ。
「今お前、“俺”って言った?」
「言ったけど。男だよ?」
「……お前、名前は?」
「カナ」
女かと思った、というあーちゃんの呟きは、確かに本音。
むしろ、隠さずに素直に言ってくれてよかった。
日常的に女装を嗜むせいか、童顔なせいか、はたまたまだ15歳なせいか、俺はよく女に間違えられることがある。
「キルア、カナちゃんはどう見たって男だよ?」
「………………どこが?」
「ごめんねー、まぎらわしい服着てるせいで。まぁしょっちゅうだから気にしてないよ? 安心して!」
「困ることないの?」
「んー、まぁ……なくはないけど。俺がいつも一緒に居る44番、ひーちゃんって言うんだけど、ひーちゃんが恨みを買いやすい人だから、俺女だと思われて結構誘拐されちゃったりするんだよね!」
「……それは、悪いことだろ」
「でもでも、ひーちゃんは強いから、すぐに助けに来てくれるんだ! 助けてくれる時のひーちゃん、めちゃくちゃかっこいいんだよ!」
(そうか……44番と45番はそういう関係だったのか。なら、横抱きにして走ってたのも解る)
「え、じゃあ、カナちゃんとヒソカは付き合ってるの?」
「………………んー?」
俺は首を捻る。……俺は、ひーちゃんと付き合ってるんだっけ?
いや確かに、付き合ってはいるけど、それを言ってもいいと言われていただろうか。
ちょっと記憶に無い。
「んー、じゃあ、内緒にしてね。特に、ひーちゃんには、俺が言ったって言わないでよ!」
「分かった」
「……付き合ってる」
(当たり前、ていうか、バレバレ)
「あーちゃん、聞いてる?」
「あーうん、聞いてる」
あーちゃんの反応が適当で、何だか微妙な気持ちになる。もしかして、もうバレてたとか言わないよな?
「うん、もういいよ、俺の話は。なあなあ、2人は何歳?」
「もうすぐ12歳だよ」
「俺も」
「え、そうなんだ!」
ゴンは、年相応に見える。
あーちゃんは……もう少し、年上に見えてもおかしくなかった。
「意外だなぁ。あーちゃん、俺と同じくらいかと思ってたのに」
「え、お前何歳?」
「15歳!」
「そうなんだ!」
(ヒソカ……あいつ、犯罪じゃね?)
ただでさえも何とかとかあーちゃんが何か言っているが、残念ながらあまり聞こえなかった。
「でも、ハンター試験を受ける中では、年近い方じゃない?」
「あの……さ、カナ、ヒソカって何歳なんだ?」
「さぁ……聞いたことないけど」
(……愛に年齢は関係ないのか)
そういや俺は、ひーちゃんの年齢を聞いたことがない。
ひーちゃんは俺に、初めて会った時に名前と年を聞いたけど、それも数年前の話だ。
ひーちゃんが何て思っているかは知らないが、俺は別に不便に思ったことはないので、未だに聞いていない。
「そうだ、2人は何の話してたんだ?」
「キルアの家族の話」
「ふーん?」
あーちゃんはあまり、家族について話したくなさそうだった。それは多分、俺が居るからだろう。
ゴンと2人ならば、饒舌であろうあーちゃんの姿が容易に想像できる。
……ま、俺には関係のない話だ。どうせいーちゃんから聞いてるし。
「ゴンの家族は?」
「父さんが、ハンターやってる」
「ふーん、すごいね……ハンターなんて、大変そうだけど」
「でも、きっとすごく楽しいよ!」
ゴンは瞳を輝かせ言う。……そうか彼は、本当にハンターになりたいのだ。
「うん、頑張って。ゴンなら大丈夫。きっと、お父さんみたいな立派なハンターになれるよ」
「うん、ありがとう!」
「……カナは?」
笑って言うと、鋭い声が飛ぶ。
見ると、あーちゃんの表情は存外鋭かった。
「カナの家族は? どうなんだ?」
「んー、どうなのかな……暫く会ってないから、わかんないな。もう今はさ、ひーちゃんが家族だから」
「ふーん」
それは本音だが、あーちゃんはまだ俺に疑うような目を向けていた。
「いいよ、俺の話は。してもつまんないし。……それより」
感じる。ただ者ではない雰囲気。
それはあーちゃんも同じようで、まるで目は猫のようだった。
「俺はもっと、ゴンとあーちゃんと話してたいんだけどね。どうやらそれは許されないみたい」
「どうして?」
「また後でお話しさせてね、ゴン」
ゴンとあーちゃんは一斉に振り向く。俺はそれと逆の方を見ていた。
今、確かに気配を――いや、念みたいなものだろうか。
そういう、強い意思を感じた。
「あ、会長だ」
「さすがに君は騙せないか」
「会長、向こうから誰か来ませんでしたか?」
「年の割に素早いね、ジイさん」
「今のが?」
ちょこっと歩いただけじゃよ、と言う会長に、敵意を剥き出しにするあーちゃん。状況を把握できていないのはゴン。
あーちゃんは更に畳み掛ける。
「ジイさん、暇? どうせ、最終試験まで別にやることないんだろ?」
「まぁそう邪険にするな」
ワシと遊ばないかね。
その提案に、ゴンとあーちゃんは乗る。
当たり前か――試験免除でハンターになれるんだもの。
俺はこっそり溜息をつく。
「君はどうする?」
「俺は辞退します。……でも」
見学させてもらいます、と言うとあっさり了解してもらえた。
その“遊び”には全く興味がないが、会長の実力は気になる。
ひーちゃんも大分、会長のことを気にしてたみたいだから、いい手土産になるかな!
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