「うぅ……ぎーちゃん、どこ行っちゃったの……」
霧に紛れて殺しをやらかしそうなひーちゃんと別れ、俺は1人で走っていた。
……それにしても、ここはどこなんだか。確かに湿原ではあるのだけれど。
何だか、だんだん周りで見られる猛獣が凶暴なものになっていっている気がする。
「通信機はひーちゃんが持ってるし……もう、ひーちゃんの馬鹿、俺に自力でぎーちゃんを捜し出せなんて!」
ひーちゃんは確かに無茶ぶり専門の人だったが、何もそれをこんな所で発揮しなくても。
ぎーちゃんは基本的に気配を消してるし、ってそれはいーちゃんか、とにかく捜すのはすこぶる骨が折れるのである。
あぁ、もうやめたい。ぎーちゃんどころか、試験官まで見失っちゃってるし。
「……血の臭い、するなぁ……まさかひーちゃん?」
先程から気になっていた臭い。殺気立っていたから、多分というか絶対ひーちゃん。他に、人を殺す度胸のある人なんて、この中にはいーちゃんとキルア君しかいなかった。
鼻はあまりよい方ではないが、何とか気配を探し当て、俺はそっちへ向かう。
――霧の中で、最初に俺が視界に捉えたのは、ゴンだった。
「ひーちゃんに殺られてないんだ……ふうん、やっぱ素質あるんじゃんね」
目を凝らして見ていると、ひーちゃんがゴンに近づいていって、同じ目線になるようにしゃがんだ。しかもその顔が変態きわまりない。
……あ、ちょっと嫉妬、したかも。俺にはあんな親切、見せないくせに。
合格、とひーちゃんの唇が動くのを俺は黙ってみていた。
「……ひーちゃんの馬鹿」
「あれ、カナちゃん◆ギタラクルの所に行ったと思ってたのに◆」
「こんな霧の中で、気配消してる人のことなんか分かるわけないじゃん」
「またまた、嘘だね◆」
ボクを捜しに来たんだろう? とあまりに自信のある笑顔で言うから、俺は一瞬、何も言えなくなった。
「……猛獣の餌食になるのが嫌で、せめてひーちゃんを見つけようと思って、血の臭いを辿ってきただけだよ」
「匂いを? へぇ……やるじゃん◆」
「褒めても何も出ないよ」
しゃがんで、とかなり身長差のあるひーちゃんに言う。ひーちゃんは、どこかで見たことのある上半身裸でスーツの男を担いでいた。
……また浮気、しかも男か。いい加減懲りたらいいのに、俺の前でよくそんな真似ができるなと呆れた。
「ひーちゃんはぎーちゃん、ていうかゴールの場所分かるんでしょ。連れてってよ。俺は久しぶりに走って疲れてるんで、ちょっと寝るけど」
「分かったよ◆でも、今カナが載ってるこいつに、何かあったらタダじゃ済まないから◆」
「……分かったよ」
やっぱりひーちゃんは、この男にご執心らしい。いーちゃんといい、男だったら誰でもいいのかと思いそうだ。いや流石にいーちゃんとは何もないだろうけど。
むしろ、何かあったら怖い。
「おやすみ」
折角機嫌を治そうと声をかけたのに、返事がなかったのでふて寝してやることにした。
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