暇を持て余し、ぎーちゃんと遊んだり、寝たりしていると、続々と受験生が増えてきた。
残り3分くらいになると、たどり着いたのに死んでいる人まで現れた。
「あの人かわいそー。ねぇ、ひーちゃん、あの人助けてあげてもいい?」
「そういうことするの、やめなよ◆」
「ちぇー……」
俺は既に立ち上がりかけていたが、ひーちゃんに言われ、座り直す。いい加減お尻が痛いんですけど。
「……それよりひーちゃん、心配じゃない?」
「何が?」
「まだあの2人、来てないよ」
ゴンとあーちゃんの姿がいつまでも見えない。どういうことなんだろう。
あの2人は素質があるから大丈夫だろうと思ったのに。余程悪い試験にでも当たったのだろうか。
死んだのかもね、とあっさり言うひーちゃんに、俺がそわそわし始めた頃、漸く1つの扉が開いた。
「! ゴン! あーちゃん!」
「カナちゃん!」
ゴンと、あーちゃんと、もう1人。
見たことがあるような気もする金髪の人も混じっている。
しかし、俺がゴンとあーちゃんに抱き着こうとすると、その金髪が俺の前に立ちはだかった。
「……なに」
「何者だ」
「あ、クラピカ、いいんだ。その子は俺たちの友達だよ。ね、キルア?」
「……あ、うん」
「友達?」
クラピカ、と呼ばれたその人は、訝しげにしながら俺の前から避ける。
俺は暫くクラピカを睨んでいたが、やがてゴンとあーちゃんに抱き着くことを再開した。
「や、無事でよかったよ、2人とも!」
「カナもね」
「ゴンがすごい発想してくれなけりゃ、俺たち皆失格だったかもしれない」
ん? と聞くと、後ろからむさいおっさんが2人出てきた。うへぇー。
「俺たちの試験は、ひたすら多数決で決めて進んでく道でさ。途中まではよかったんだけど、最後になって、5人で行く道と、3人で行く道があったんだ。時間的には、3人で行く道を選ばなけりゃならない――でも、こいつは5人で攻略したいって言ったんだ。どうするか」
あーちゃんはゴンの方を見る。
「対戦した試練官が素手で床や壁を壊したりしてたからさ、道具さえあれば、残り時間内に壁に穴をあけることだって出来るかもって思っただけなんだけどね。……俺たちは、5人で行く道を選んで、3人で早く行ける道に入ったんだ」
「!」
何という発想力だろう。普通の人は、極限に迫られたらそんな発想はできない。どちらかをただ選ぶだけだ。
多分、残りの4人は普通に選択しようと考えただろう。――自分を守るために。
俺は抱き着いたまま、クラピカの手に触れる。
「な、」
「すごい、頑張ったんだね――手がこんなになるまで、仲間のために。……よかったね、くーちゃん」
俺が笑って言うと、隣から溜息が聞こえてきた。
『タイムアップ!』
「!」
『第3次試験、通過人数26名!』
「あー……漸く、久しぶりに太陽の下だなぁ」
「疲れたかい?」
「まぁね。俺、太陽大好きだし」
珍しくひーちゃんの手が俺の頭上に伸びてきて、撫でる。
俺はそれを甘んじて受け入れた。塔の外に出られたことが嬉しいからだ。
「諸君、タワー脱出おめでとう」
3次試験の試験官はモヒカンで眼鏡だった。……どうでもいいけど。
「残る試験は、4次試験と最終試験のみ。4次試験は、ゼビル島にて行われる」
試験官の奥の方に山が見えた。
遠くてよく見えない――が、試験の会場というから、それなりの場所なのだろう。
「では早速だが、これからクジを引いてもらう」
「クジ……?」
「そう」
モヒカン眼鏡の試験官は、少しだけ笑んで答える。
「このクジで決定するのは、狩る者と狩られる者――」
勿体ぶった言い方に少々腹が立つ。
「この中には、24枚のナンバーカード――すなわち、今残っている諸君らの受験番号が入っている」
――成る程。
そういうことか。
「ねぇ、ひーちゃん、ナンバープレートはしまっておいた方がいいかな?」
「何でそう思うんだい?」
「今から1枚ずつ引いてもらう」
これは、俺には少々難しい試験かもしれない。
何たって、サバイバルには向いていない格好なわけだし。それだけじゃないけど。
「それでは、タワーを脱出した順にクジを引いてもらおう」
「えっ、じゃあひーちゃんが一番か、ずるいな」
「……カナちゃんは二番じゃないか◆」
まぁ、それはそうなんだけどね。
ひーちゃんは箱の前に進み出ると、腕を突っ込み、何の躊躇いもなく引き抜く。
何番を引き当てたのだろう――俺じゃないといいけれど、
なんて思っている内に、すぐに二番と呼ばれた。
「ひーちゃん、何番?」
「ナイショだよ◆」
「えー、ケチ」
ぎーちゃんだったら教えてくれるかなぁ。俺はそっと周りを盗み見る。
……あぁ、あの人か。そうだな、多分、これはプレートの奪い合いなんだろう。
ひーちゃんなんかは喜んで、関係ない人まで殺しちゃいそうだ。
「……ひーちゃん」
「ん?」
「俺……合格できなかったら、ごめんね」
ひーちゃんが俺を見下ろす。意外そうな表情をしていた。
俺は泣きそうな声を出していたくせに、内心は意外と平静だ。
「俺……これ、すっごい苦手な気がするんだよね」
「どんな?」
「その……何か、人から何かを、奪うような試験な気がする……」
「全員引き終わったね」
皆、自分の引いたカードを凝視している。
感づいたのか、既にプレートを懐にしまっている者も居て。
「それぞれのカードに示された番号の受験生が、それぞれの獲物だ」
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