「もう……ひーちゃんの馬鹿……ね、ぎーちゃんもそう思うでしょ?」
痴漢から救われ、飛行船の隅に連れて行かれ、そこで誰が性交をするなんて思うだろう。
たった一時の、ほんの一瞬の交わりだったが――まぁ、感謝していなくはない。
ひーちゃんの熱に触れることで、あの男たちのことを忘れられたのは確かだ。
「……でも、ぎーちゃんが来てくれなかったら今頃、第2ラウンド突入してたよ……あ、ぎーちゃん、戻ってもいいよ?」
「それじゃ、遠慮なく」
バキバキ、ゴキゴキッと厭な音がして、たちまちぎーちゃんはいーちゃんに戻った。
俺は嬉しくて、いーちゃんに抱き着く。
「わ、やった、いーちゃんだ! ぎーちゃんじゃなくて、本物のいーちゃん!」
「……喜んでる? カナ」
「勿論!」
にっこり笑うと、いーちゃんはやはり表情を変えないまま俺を引きはがした。いや、その顔は、もう慣れてしまったけれど。
「えー、何で、いーちゃん」
「こんな場面見られたら、ヒソカに殺されるのはカナじゃなくて俺だからね」
「……それもそうか」
まさか、いーちゃんがひーちゃんに殺されるなんて思ってないけど。
実力? ……どうだろう。
「……ねぇ、いーちゃん」
少し離れたまま問う。
俺たちの、ひーちゃんから離れていくような歩みは、いつの間にか止まっていた。
「いーちゃんはこの試験、どう思う?」
「どうって?」
「……俺は、すごくつまんない」
そう言うと、いーちゃんは少し考えるようなそぶりを見せる。
「まぁ、思っていたよりは簡単で拍子抜けしたね」
「……あーちゃんと同じこと言ってる」
「ん?」
誰? と聞かれて、キルア、と答えた。
俺たちが接触したことをバラしてはいけない筈はないだろうし、そもそもいーちゃんはもうあーちゃんの存在に気づいている。
俺とあーちゃんが接触するのも、時間の問題だとか思っていただろう。
「あいつが、そんなことを?」
「うん。ゴンと一緒に居た時ね」
遠かったからとぎれとぎれで、あまり聞こえなかったのだけれど。
「ふぅん……随分言うようになったんだね」
「あーちゃんは、自分に自信があるよ。そうでしょ?」
いーちゃんは、それには何も答えない。
だが、そうでなければ、あーちゃん程の人が会長の誘いに乗る筈ない。
「あ、それよりさ、いーちゃん」
「何?」
「一緒に寝ていい?」
いーちゃんは首を傾げる。
「ヒソカ、多分捜してると思うけど」
「それはないね。あんな散々ヤっといて、泣きながら逃げた恋人を捜すなんて、もしあったとしてもひーちゃんならもう1ラウンドしたいだけだよ」
「……それもそうか」
別にいいけど、と言っていーちゃんは壁にもたれる。
俺は即座にその隣に座った。
「俺、ギタラクルに戻るよ」
「……げー」
「誰かに見られたら、何かと面倒だし」
うわ、これ最悪、朝起きたらぎーちゃんの顔見ることになるのか。それはちょっとなー。寝覚め悪いよね。
俺は少し考える。……でも、このタイミングでいーちゃんの所に戻るっていうのも、あまり戴けない。
「……うん、決めた。俺、寝るのはいーちゃんと一緒に寝るよ」
「そう」
「で、朝はいーちゃんに起こしてもらうのー」
自分で言うのもなんだが、俺は寝付きがよく、寝起きが悪い方である。つまり惰眠を貪るのに最適。
どこでも寝られるが、基本的に誰かに起こしてもらわなければ起きない。まさか、ぎーちゃんと一緒に寝た日に限って、寝起きがいい筈もないだろうし。
だったら朝は、早いいーちゃんにさっさと起きてもらって、きっと捜しに来るであろうひーちゃんに起こしてもらうのが最善だ。
「どう? いい考えでしょ」
「俺は別に何でもいいけど」
「うあー、いーちゃん、ぎーちゃんに戻るのは俺が寝てからにして。大丈夫、俺ソッコーで寝れるから、そんな待たせないよ」
「……分かった」
「じゃあ、お休みー」
俺は手を伸ばし、いーちゃんの頬に触れるだけのキスをし、寝転がる。
勿論他意は無いし、寝転がったのはいーちゃんの膝の上ですよ。なかなか快適。
ひーちゃんと一緒に居る時とは、また違う。
そんな心地好さの中で、俺はすぐに眠りに落ちていった。
(今日はもう、何回も寝てるけど)
(疲れたからまだまだ寝れる!)
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