※ハトアリ






 いつだって一緒だったのに、僕らは。
 同じように武器を扱い、金と時間を大切にしていた筈なのに。
 一体どこで食い違ってしまったのだろう。

 彼女、と言っても差し支えないくらい可愛いお兄さんが帽子屋屋敷にやってきたのは、随分最近の事だった。
 門番という仕事柄上彼と初めて会ったのは僕たちなんだけど、……不審者とはとても思えないくらい綺麗なひとで。
 突然現れたひよこウサギが躊躇いなく引き金を引こうとするのを、僕らは必死に止めたくらいだった。

 気が向けば、いつでも入れ代われる存在。
 曖昧で不確かだったけれど、彼が来てからそんな事もなくなった。
 兄弟――ディーが、“僕”になる事を好まなくなったから。
 彼が僕たちのイリュージョンに騙されないという事もあるんだけど、それはあくまで2つ目の理由。
 兄弟に拒否されれば、当たり前に入れ代わる事はできない。

 不思議だった。兄弟が何故そんなに利益の無い事をするのか。
 彼は確かに僕にとって玩具だった。十分に面白いおもちゃだ。
 でも、どうやら兄弟は彼をそうとは思っていないらしい。
 現に僕と一緒の行動が減った。門番の仕事さえマトモにしていない。
 “彼”なのだとすぐに分かった。

 ある日、仕事を真面目に終え部屋に戻ってくると。
 あろう事か、2人はキスをしていた。
 僕は大きな音を出して逃げ出したからきっと聞こえていただろう。でも誰も追い掛けてはこなかった。
 ――その瞬間に、嗚呼、そういう事だったのかと悟った。
 兄弟は彼を“そういう対象”として見ていたのだ。僕と違って。
 だからあんなに彼を真剣な目で見つめていたんだ。

 僕の兄弟。
 生まれた時からずっと一緒で、役持ちだから死なずに済んだ。
 今は役なしのカード達を切り捨てている、役目についているのは僕だけだ。
 兄弟は別の道を歩んでいる。――僕とは違う。
 僕たちは所詮、他人なんだ。
 僕は彼に好意を抱かない。あるとすれば、憎悪ゆえの行為か。
 彼に兄弟を奪われた。――さて、どうしてくれよう。
 僕はそんな兄弟の笑顔なんて見たくない。ねぇ、永遠に僕たちだけの世界を築こう? 他所者なんて要らないよ。
 僕は斧を銃に持ち替える。
 この扉の先に、彼らは居る筈なんだ。――さて、どうしてくれよう?



 その時僕は、自分が彼の名前を知らないのを知った。




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