「俺は、あいつを見捨てられないから」

 その言葉の中に、諦めは無い。
 ただそう在るだけだと、当然の事のようにカインは言う。
 俺はそれが腹立たしかった。

「でも、庇う事なかったろ。みんな王がおかしいのなんて分かってる筈だろ」
「……分かってるんなら、俺たちは行かされてはいないさ」

 視界に入るのは、金の髪。カインは珍しく髪を解いていた。
 一つに纏めているのもいいが、やはり癖のない下ろされたストレートの髪を見るのは気持ちが良い。

「……セシルと、行くのか」

 問うまでもなかった。カインは先程から同じ言葉を繰り返している。
 ひそかに付き合っている俺がいくら説得しても、カインは聞く耳を持たないようだった。

「俺が行かなきゃ、誰が行く」

 幼なじみだから、とカインは言う。しかし本当にそれだけだろうか。
 人を容易に信じられない俺は疑ってしまう。自身の恋人の筈の人さえ。

「……そうだよな」

 セシルとカインは互いを深く信頼している。
 ――そしてそこにローザが介入し、物語はより複雑になる。

「俺、信じてるよ、カインのこと」
「レイシ」
「今まで大丈夫だったんだから、今回も大丈夫。信じて待ってるよ、カインのこと」

 笑顔が歪む。――本当は今にも泣き出しそうだ。
 今回は口が裂けても言うつもりはないが、嫌な予感がする。俺の予感はよく当たる。
 セシルと一緒に行かないでほしい。だって、どうしてそんなにセシルが大事なの?
 眠れない夜、来るべき朝、人肌恋しい時に傍に居てほしい大切な人。
 俺はこんなに好きなのに……。

「――あぁ」

 その瞬間、背中が震えたのは気のせいだろうか。

「カイン……?」
「お前が信じて待ってくれるというなら――必ず、帰ってくる」

 カインはそれだけ言って、やはり背を向けたままだった。
 




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