好きで、好きで、愛しくて。
 誰にも渡さないって誓ったのに、彼はあっさりと俺の前から居なくなってしまった。
 どこに行ったのか、なんて知らない。
 多分誰も知らないだろう。
 彼には放浪癖があるのだと、かつて彼の兄は言っていた。
 だからきっと今も、彼はこの空の下に居るだろう。

 計り知れない器を持っていた。
 どれだけ傍に居ても何も分からなかった。
 彼は俺の表面の言葉に小さく笑うだけだったし、俺も彼から何も聞き出そうとは思わなかった。
 そうして積もり積もって、俺は今此処に居る。

 ちなみに、彼の居場所が分かったとしても俺は行く気は更々ない。
 だって、先に俺を捨てたのは、彼だ。俺は何も悪くない。
 いつだって当たり障りのない会話を交わしては、逃げていく。
 俺は彼に触れたかった。それだけなのに。
 俺と彼の関係は多分一瞬で終わってしまった。

 血濡れの教室。見た事のある顔が辛うじて確認できる。
 ここまで残虐に殺せるなんて、多分犯人は人じゃない。……そう思ってしまう。
 血溜まりの中、骸を抱き上げ沈黙を守った。

 ふと、その中に彼の姿が無い事に気付いた。
 ――彼はどこに行ったのだろう? 今日は欠席なのだろうか。
 まさか、まさかまさかまさか。彼に限って、そんなわけ。
 血に濡れた制服を纏ったまま、歩き出す。俺に彼との関係性はない。
 こうして「平和な日常」が瓦解した今、彼を追う意味など既にない筈なのに。
 どうせまた興味を失ってしまうのに。
 どうして。






















「よう」
「……零崎」
「あ、何だお前、知ってたのか」
「君の事……調べる内にたどり着いたんだよ」
「かはは、俺の事そんなに好きでいてくれたのか。泣いたか?」
「……一回も」
「あァ、そうだ。それでこそ俺の“友達”だよな」

「ところでお前、誰だっけ?」




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