心の距離

「先生、もう冷蔵庫に食材がないんですけど……」

 それは、俺なりの精一杯の譲歩と主張のつもりだった。
 いくら作品製作に没頭する先生だって、3日も飲まず食わずだったら疲労するだろう。
 そう思ったのだった。

「……邪魔をするなと言わなかったか」
「ですけど……先生のお体も心配ですし……」
「買い物くらい、自分で行ったらどうだ」

 答えに窮す。
 ――何度同じことを言えばいいのだろう、と。

「お金が……ないんです」

 そもそも金があればひもじい思いをさせる事はないし、ここで世話になっている事もない。
 この言葉を口にする度、激しい後悔の念に襲われる。
 それでも――先生は、もう出て行けとは言わないのだけれど。

「嗚呼……そうだったな」

 作業場から出てきた先生は、以前見た時よりやつれているように見えた。
 当然か――俺も同じだけ、食っていないのだ。
 先生は元からかなり痩せているけれど、多分鏡で見れば、俺も先生もそう変わらないのだろう。

「場所を教える。着いてこい」
「……え?」

 先生は言うが早いか、俺を置いてさっさと歩き出した。
 教えるって――何を?
 疑問の方が先立ちながらも、俺は先生に着いていった。

「私が知っていても意味がないだろう。買って、作るのはお前なのだから」

 先生はある部屋の抽出を指さす。
 俺が抽出を開けると、そこには金が保管されていた。

「先生……これ、」
「これで足りないことがあれば言うといい。私はまた戻るぞ」
「あ……」

 ありがとうございます! と。
 何だか変な応対だった気がするが――まぁいいよね!











(これで、また少し)
(先生と近付けた気がする)






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