「な……んで……?」
床に投げられたのは、俺のケータイ。
――だった物。
今は既にケータイではない、いやきっと開けたらいつものように『彼』が笑顔で出迎えてくれるんだろうけど、今はそれをする気力もなかった。
「何でって?」
意地悪そうに笑みを浮かべるのは臨也。
俺が家に帰ってきたら、なんか知らんけどうちに居た。
「だって、澪士は俺以外と連絡を取る必要がない。そうでしょ? 澪士は俺だけ見てればいいんだよ」
「そんな……!」
――いつだか、俺は本当に、そんなことを夢見た事がある。
その時は遊び半分で、というかよく後先も考えず、そう思ったものだが。
――臨也だけの、ものになりたい。――
浅はかな考えだったと思う。
「それにしても、シズちゃんからのこの着信の量、凄くない? もしかして2人は付き合ってたりするのかな?」
「まさか……!」
「あはは、だよねぇ」
臨也が近付いてくる。
今は、今だけは、臨也が怖いと思う――静雄はいつも、臨也を前にしてどう思う?
どうして俺は、こんな人を好きになったんだろう。
「澪士が俺以外の人を、好きになれる訳、ない」
今日は静雄と遊ぶ約束をしていた。
少し早めに出ていったらケータイを忘れた事に気が付いたんだが、まぁ使う事もないよなと気にしないでいたんだった。
そして――静雄と別れて、帰ってきてみれば、これだ。
「澪士にはこれあげるよ。そのケータイはもう使い物にならないでしょ?」
「誰のせいで……!」
差し出されたケータイを引ったくる。
デザインとしては嫌いじゃない、むしろ好きな方だ。
しかし臨也の事だ、タダでケータイを寄越す筈がない。
「! これ……」
「通信料とかも、全部俺の奢りだよ。――ただし、俺の電話にしか出ないという条件で」
俺は臨也を見上げる。
「請求書は全部俺の所にくるからね、違う事に使ってたらすぐ分かるよ。そのケータイは、俺からのメールと電話に応える以外に使うのを許さないから。……分かった? 縛られたい澪士君」
「……臨也……」
――どうして、そういう事をするんだろう。
俺はただ、普通に臨也を好きでいたかっただけなのに。
「……何で……」
貰ったケータイ、床の上に在った、ガムテープで何重にも巻かれたケータイをにぎりしめながら、俺は涙を堪えた。
10-8/30
1ヶ月&1000HIT記念企画。
元々は友人の零した言葉『ガムテープをケータイにぐるぐる巻き』に反応したものでした。
そんな事するのは臨也くらいかなって(笑)
臨也→←澪士 かな。
澪士君も病んでなくはない。