「…………」
ちゅ、ちゅと、かわいらしいリップ音だけが響く。
時折キーボードを叩く音、マウスのホイールが回る音、それらが混じり合いながらも止まる事はなく。
しかめっつらの臨也に、子どものようなキスを繰り返す澪士。
「……あのさ」
「ん?」
臨也は澪士の方を見ない。
「あ、大丈夫大丈夫、臨也の仕事の内容は見てないから」
――しかし背後からぎゅうと抱き着かれれば、心配になるに決まっている。
「……そういう問題じゃなくて」
「?」
臨也の疲れた赤い目は、未だパソコンの画面から離される事はなかったが。
ぐるりと椅子を回すと、ぎゃっと情けない声を出して澪士は臨也を放した。
「な、なに臨也! 殺す気!?」
「違うけど」
「じゃあ何――んぅ」
臨也は抱き寄せ、キスをする。
バランスを崩した澪士の腰に腕を回し、顎に手を添え上向かせて。
澪士を見つめたままのキスは、いつもより扇情的だった。
――あぁ、仕事なんてなけりゃ、抱いてるのになぁ――
赤い瞳は考えても、感情を映すなんて馬鹿な事はしない。
「……ッ」
「子供っぽいキスより、よっぽどヨかったでしょ?」
仕事終わるまで待ってなさい、と。
その言葉には澪士への侮蔑も含まれていた事を、彼が知らない筈はない。
だから――。
「臨也!」
また椅子を回してしまった彼の肩を、ぐいと引いた。
「! ――ん、」
いつも臨也がしているように、澪士は舌を差し込む。
噛まれる事を恐れているのか――怖ず怖ずと、なところが可愛い。
楽しそうに臨也も舌を絡める。澪士がペースを握ったのは、不意を突いた最初だけだった。
「……はは。可愛いな、澪士は」
「う……」
ちょっとした攻防戦ののち、ぐったりと息をはいたのは澪士だった。
「そんなにシたいなら仕方ないか。ベッド行くか、澪士」
「えっ!?」
「なに、ここでしたいの?」
臨也の問いに、そんな、滅相もございませんと澪士は激しく首を横に振る。
――待ってたくせに、さ。
まぁ可愛いからいいかと臨也は笑って、真っ赤になった澪士の手を引いた。
10-9/11
(……臨也は俺のこと、キス魔だって言うけど)
(どっちがだよ――!)