何度、誰を愛しても傷付けてしまうからもう俺に感情なんか必要ないんじゃねぇかって思った。
いつだって俺が壊してしまうのは大切なもので、本当に壊したいものはどこかへ行ってしまう。
――もう、他人を、愛さない方がいいって。
そう気付いた、筈なのに。
「しーずおっ」
無邪気に懐いてくるこいつを無下に扱う事はできず、今もこうして頭の上に手を置いて。
何も生み出しはしない、破壊しか知らないこの手を好きだと言ってくれる。
嫌う奴を構う道理はないが。
慕う奴を払う道理もねぇ。
困ったものだと思いながら、俺はできるだけゆっくりと、優しく澪士の頭を撫で続けた。
「……ねぇ、静雄」
「あ?」
腰に巻き付けられた手に、力が入るのが分かる。
「俺……静雄を、好きにならない方がよかったのかな」
「……は?」
――今、なんて?
聞いてはいけない事を聞いてしまった気がして。
俺は震えた声のまま、もう一度聞いた。
「俺が静雄を好きになっちゃったから、静雄は困ってるのかなって」
「……何で、」
「だって、静雄はそんな顔をしてる」
ごめんね、俺のせいだね。
そう言った小さな彼を、俺は初めて、離したくないと思った。
ずっとこの腕の中に閉じ込めて、俺しか見なきゃいいって。
そんな悲しい事を思うくらいなら、俺が幸せにしてやりたいと、そう思った。
「……感情なんか、なきゃよかったね」
「……あぁ」
俺も前まで、そう思ってたよ。人を傷付けるだけなら、と。
静かに涙を流す澪士の姿は綺麗で、俺は思わず指で拭った雫を舐めてしまった。
「でもよ、今は別に、あってもいいと思うぞ、俺は」
「……何で?」
感情はただ、傷付けるだけじゃねぇ。
誰かを護る事、想う事もできるから。
「お前を好きになったから」
俺はいつになっても懲りない。俺が愛する人は、みんなみんな不幸になると知っているのに。
俺はまた、馬鹿みたいに他人を愛するのだ。でも、ノミ蟲と一緒にすんな。
いつも俺は、次こそ愛せる。
次こそ護れるって、思うから。
「……そうだね」
そうして笑う澪士を、傷付けたくはないと思うけれど。
悪ぃ、と心の中で謝りながら、俺は唇を近付けた。
10-9/11
(傷付けたくなんて、ねぇのに)
(俺は、また、人を愛するんだ)
(静雄……静雄、ごめんね)
(俺が静雄を好きになっちゃったから)
(――愛してる)