呼吸ができないのは、気持ちいい。
 あぁ、頼むよ、もう少しだけ、もう少しだけだから。
 そんな事を呟きながら、俺は意識を手放した。





「……っの、馬鹿!」

 苛立つ臨也は、コートも脱がずに風呂場に居た。
 勿論それは、風呂に入る為ではない。

「冷水……!」

 風呂に貯められた水が、お湯だったらよかったかというとそういう問題ではない。
 しかし今は冬に近づきつつある秋、まだ温かいお湯の方がマシかなと思っただけだ。
 ――相変わらず澪士は、馬鹿な事をする。
 臨也は溜息も出なかったが、ぐいと手を引き抱き上げた。




「……あー、」
「おはよう澪士」

 ……ここ、どこだろう。こころなしか声が枯れて、喉が痛い気がするんだけど。
 ――あ、俺の部屋か。
 臨也からコーンスープの入ったマグカップを受け取り、思い出す。

「……あったかい」
「でしょ」

 それ以上何も言わない臨也に、
 ――あー、俺、またやっちまったんだな――
 それしか思わなかった。

「全く、いつも驚かされるこっちの身にもなってよね。走りながら、今日はどこから探そうか、って考えてるんだから」
「あー……悪い」
「今日はたまたま風呂場からにしてて本当によかった」

 最近入水なかったもんね、とぽつりと呟かれる言葉に、俺はじくりと胸をえぐられる。
 そうだ……最近俺は、刃物系が多かった。
 無意識の俺、何してる。

「まぁ澪士が無事でよかったよ。毎回これはやめてほしいけどね」

 俺の心臓がもたないし、とくしゃりと頭を撫でられる。……あぁ、気持ちいい。
 俺はこんなに幸せなのに、何で死のうとしたんだろう。


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