「よぅ臨也君。もう池袋には現れるんじゃねぇって言わなかったか?」
「あぁ、やだなシズちゃん。池袋は別にシズちゃんの家じゃないんだから俺が来てもいいんじゃない?」
「黙れノミ蟲!」
「うわっと」
臨也がギリギリで標識を避けたのを、俺は至近距離で見ていた。
別に物珍しいわけではないのだが、むしろ日常茶飯事なのだが、少しぼうっとしていた俺を抱き寄せ臨也は言う。
「ちょっとシズちゃん、今日は澪士も居るんだから危ない事はやめてよね」
「……何でここに」
「久しぶり、静雄」
へらっと笑ってみせると、静雄は仕方ないと言う様に持ち上げていたベンチを乱暴に置く。
……あぁ、静雄、そんな風にぞんざいに扱ってはベンチさんが可哀相じゃないか。コンクリートが陥没してるぞ。
ちょっとだけ笑ったまま、しかしそれは言わずにおいた。
「……全く、シズちゃんも澪士には甘いんだから。澪士の事心配するんだったら最初から投げてこないでよね」
「お前が邪魔で見えなかったんだが」
「気配で分かれよ」
……あれ、何、何でまた既に喧嘩が始まりそうになってるの?
「行こう臨也! 今日は用事があるんだろ! 静雄もまたな!」
「澪士、そいつは置いてけ。ここで片付ける。お前は危ないからどっか行ってろ」
「シズちゃんったら必死になっちゃって……澪士は俺しか眼中にないって分からないのかな?」
「な、に言って……ん」
ねぇ澪士、という場違いな甘い台詞に、バキ、とあからさまな音が聞こえた。
――まぁそりゃ街灯を引っこ抜けるくらいだから? 折るのだってたやすいだろうけど?
臨也の馬鹿! 何か俺が悪いみたいだろ!
「い、いざ……」
「涙目になっちゃって、澪士、可愛い」
「いい加減死ね!」
「うわ!?」
折れた街灯を投げてきた。……流石だ。
街灯はつまり2本になったわけで、珍しくそれに気付かなかった臨也は2本目の街灯に首元をかすられる。
「シズちゃん危ないよ……俺が死んだらどうしてくれんの?」
「手前がそんな簡単に死ぬタマか、あぁ? 手前が死んだら世界が平和になるから安心しろよ」
まぁそりゃ多少平和にはなるかもしんないけど、でも……!
駄目だ止められるのは俺しか居ない、と勇気を振り絞って臨也の手を捕まえた。
「!」
「2人とも、ストップ!」
臨也は嬉しそうな顔してるが、この距離じゃ静雄の手を掴めなかっただけだ馬鹿。
静雄も近かったらとっくに手ェ握ってるっつの。
「俺、2人に怪我してほしくないし……死んでほしくねぇから、とりあえず今日はここで終わり。な?」
「……澪士、それは君が言える立場なの?」
「え?」
溜息をつく臨也と、ばつの悪そうな表情をする静雄。
あれ、何、俺何か言った?
「……まぁいいか、今日は君の可愛さに免じて許してあげるけど。じゃあまたねシズちゃん」
「手前っ、さっさと池袋から出てけ!」
「やだよ」
今日は澪士が池袋に行きたいって言ったんだから、と臨也が言うと、予想外に静雄は静かになった。
……何だろう。2人の間で俺、何だと思われてるんだろう。
「ほら澪士、澪士もシズちゃんにお別れ言って」
「あ、あぁ……じゃあな、静雄」
「ん、あぁ」
臨也にそう言われ、疑問を持つ事なく俺は振り返って手を振る。
池袋の街を、俺は臨也に手を引かれながら歩き出した。