傷付けるのは殆ど無意識で、たいていの場合は、自分が刃物を持っている事にすら気付かない。

「ッ!」

 不意に腕を引っ張られた。
 ぐい、食い込む指に漸く痛みを覚えて。
 痛い、そう言って振り払おうとしたら、抱きしめられた。

「臨也……?」
「……馬鹿だね、澪士は」

 ぎゅう。強く、強く。
 まるで、何処かに行ってしまいそうなのを、此処に繋ぎ留めておくかのように。
 臨也の背中に腕を回そうとして、俺は漸く、自分がナイフを持っている事を知った。

「こんなに自分を傷付けて……痛いでしょ?」
「……っ」

 臨也に抱きしめられるまでは、そんな痛みなどなかった。
 ただ、だんだんと心が落ち着いてゆくのを感じていただけだ。

「ごめ……ごめ、ん、なさ……!」
「泣かないで」

 謝らなくていいよ、と柔らかな声が降ってきた。俺の涙腺は崩壊する。
 包丁なんて投げ捨てて、臨也の背中に腕を回して泣いて縋った。
 あぁ、馬鹿だ……こんなにも心配させたのは、他でもない俺なのに。

「臨也……っ!」

 俺は臨也に頭を撫でられるのを感じながら、大泣きしてしまった。










(……ねぇ、澪士)
(今度そういう事をする時は)
(俺を傷付けてね)

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