「……さぁ帰ろうか、澪士」

 抱き上げる。……あぁ、軽いな澪士は、本当に。
 もっと食べなきゃ駄目だよって、閉じた目に笑いかけた。






「……臨也、手前いい加減目ェ覚ませよ」
「は、いきなりどうしたのシズちゃん? 俺の事心配する余裕あるなんて珍しいね」
「お前がそんなんでもs#は喜ばねぇだろ」

 シズちゃんに言われて黙る。……うん確かに、澪士は悲しむかもしれないな。
 でもねぇ、シズちゃん。澪士より俺の方が、よっぽど悲しかったと思うよ?

「ねぇシズちゃん、シズちゃんは悲しくないの」
「ちっ、認めてやがるくせにまだそんな真似すんのか……悲しいに決まってんだろ」

 そう言ってシズちゃんは煙草を地面に落とし、足で踏み付けて消した。
 ひどいなぁ。シズちゃんに踏まれるコンクリートが可哀相じゃないか。

「でも澪士の事を考えるとな、泣けもしねぇんだよ。あいつはどんな苦しみを抱えていったんだろうと思うと」
「へぇ、シズちゃんでも泣けるんだね。意外だ」
「あぁ!?」
「……俺も同じだよ」

 ……澪士が居なくなってから、泣いてないんだよ、俺。泣けないが正しいかな。
 澪士と出会う前は感情の意味も知らなかった。他人との意思疎通に必要なのは笑顔くらいだろ。それも、建前の。
 でも、知った。

「澪士が居ないのに、感情なんて必要ない。涙なら尚更」
「……馬鹿だろ、お前」
「は? シズちゃんに言われる筋合いなんて――」

 シズちゃんの指が、ゆっくり俺の方を指す。
 何だよ人の事指して、指さすのダメって習わなかったのかな、とか考えていると、不意に違和感に気付く。
 ……え、な、何で……。

「俺……澪士……」
「澪士が悲しむぞ」

 俺の頬を伝ったのは涙。まさか、まだ泣けるなんて。
 澪士が居なくなってもう1週間、手につかない仕事も何とか終えた。
 ――だから、俺、澪士が居なくても大丈夫だって。
 所詮ただの遊びだったんだって――

「う……ぁ……澪士……」

 ――よかった。俺、まだ泣けたね。泣けたよ、澪士。
 自覚済みの薄っぺらい表情をしていると、澪士はいつも悲しんでくれたから、俺は笑ったり泣いたりするようになった。本気で。
 楽しい事とか、何も知らなかったのに、澪士はそれを自分自身で教えてくれた。
 あぁありがとう、澪士、愛してた。
 沢山の人の中で、君を一番に愛してる。

「あぁ……っ、澪士……!」

 どうして死んだんだ、なんて、言わないから。
 俺はまだそっちへ行けないけれど、いつかたどり着いた時、また笑ってくれるだろうか。
 俺の大好きな、いつもの笑顔で――












(君は笑ってくれるだろうか?)
(君の死を悲しめた、と喜ぶ僕を)





これにて1部終了です。
鬱シリーズ(笑)に付き合って下さった方、ありがとうございました!
この続きが気になる方は、是非『死にたがり2』を読んでみて下さい←

本当にありがとうございました!

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