「あーあ、ひどいね」

 例えば彼がその報いを受けた事が当然だと言うかの様に、ひどく冷たい声で言い放った。
 『彼』は苦笑する。

「臨也がこんなに怪我するのも珍しいね。何かあったの?」
「……いや、」

 ちょっとね。
 計画が、狂っちゃって。
 臨也は言う。何でもない事のように。

「……あのさ、医者にも限界はあるんだから、あんまり静雄と喧嘩しないでよ。何度も大きな怪我を繰り返してたら、いずれ取り返しの付かない事になる」

 そう言って、手に持っていた消毒液をどぼりと容赦なくかけた。
 その手つきは、とても『医者』とは思えない。
 しかし臨也は信用していた。

「……ごめんね、澪士」

 目の前で真剣な表情を見せる恋人は、あぁなんて可愛いんだろう、と思いながら。






 そもそも臨也が怪我を負ったのは、単なる不注意ではない。
 彼の場合、楽しんでつい……という事もあるのだろうが、基本的に自分が害を受けるのは好まない人間だ。
 それは、『情報屋』という特異な職業からしても分かる。
 綿密な作戦は基本的には上手くいくのだが、まぁそこに時たま横やりが入る事がないわけではない。
 池袋なら、尚更だった。

「……でも、半分以上は故意に見えるよ、臨也」
「うん?」

 溜息をつくのは、恋人。

「だって人に刺されて、こんな怪我になるわけない。他人はもっと厳しいよ」
「……酷いなぁ、澪士」
「どっちがだよ」

 くるくると包帯を回しながら。
 澪士は手慣れた手つきで巻いてゆく、先程の消毒液とは大違いだ。

「俺も心配するんだからね、臨也……はい終わり」
「ありがとう」

 ぱたんと救急箱を閉める澪士。

「大体さぁ、怪我なら新羅の所行けばいいじゃん。何で俺に嫌な事思い出させるの?」
「え? だって家の方が安心するし……楽しいから」
「そうだ、臨也は性格悪いんだった」

 そう言って澪士は臨也に背を向ける。
 その瞬間、臨也はいたずら心を覚えて。
 椅子から立ち上がった澪士の手を思いきり引いた。

「何す……っん!?」

 勢いよく臨也の膝に下ろされる澪士。
 文句を言おうとした瞬間、深く臨也に唇を奪われる。
 ――たっぷり数秒間、口内で舌を玩ばれた。

「……澪士、好きだよ」
「……ッ!」

 カァ、と頬が真っ赤に染まり、目が驚きに見開かれるのを、臨也は至近距離で見ていた。
 それも、楽しそうに。

「……ばか」

 俺もだよ、と隠す様に、澪士は臨也の胸に頭を押し付けた。


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