白い壁、白い天井、白いベッド。
 全ては俺と彼の為に用意された物で、ここは俺と彼の2人きりの部屋だった。

「……澪士……」

 幸せだった、だなんて、言ってはいけないかな。
 これからも君と幸せをつくっていくつもりだけど……。

「……ん、」
「!」

 さよならを告げるには早過ぎる。
 ゆっくりと瞼を持ち上げた君に、俺は漸く安心した。
 あぁ……君はまだ、死んでなかった……
 まだ死んでほしくないって、心の底から思った。

「……いざや……?」
「うん」

 白い服が似合うくらいに、君は痩せていた。
 ずっと一緒に居た筈なのに……俺はどうして君を救ってあげられなかったのだろう……
 俺の愛など所詮その程度だと、そう言われてもおかしくない。

「俺……何で……」

 きゅと手を握り締める。
 痩せて、骨が随分目立つようになってきた君の手が、悲しい。

「変な薬を飲んだんだね。下剤みたいなのを」
「……あぁ……」

 あれ飲んだら死ねるのかなって思ったんだ、と何でもない事のように君は言う。
 ――いつから君は、死にたいって思うようになったの?
 初めて俺と出会った時、一緒に住み始めた時は、そんな事一言も口にしなかったじゃないか。

「――ごめんね、臨也」

 小さな声で君は言った。

「俺……臨也が居なかったから……死んでも、いいのかなって……」
「そんな……!」
「うん」

 だから、ごめん。

 君は凄く悲しそうな顔で、そう言ったから。
 その後すぐに、糸が切れたように眠ってしまった君を、俺は抱きしめずにはいられなかった。






「ごめんね臨也、心配かけて」
「ん?」

 臨也は前にも増して、難しい顔をする事が増えた。
 それは俺のせいだと……誰に言われなくとも知っていたけど……
 そう思うと俺は、また悲しくなるのだ。

「ねぇ臨也」
「なに?」

 ――自分は、この世に、要らないんじゃないかと。

「俺……退院して、よかったのかな」


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