凄く凄く、幸せで。
 俺、この世の中は嫌いなものが多いけど勿論好きなものもあるんだよ。

 例えば、ふかふかのベッドに寝転がって迎える朝とか。
 ふわふわのオムライスに、笑顔を零すとか。
 些細な事で喧嘩して、また仲良くなるとか。
 今日も大好きだったよって、キスをして眠る事とか。

 変わらない事が幸せなんて言う人も居るけれど、俺はそうは思わない。
 刺激がなければマトモに生きていけない奴だ。
 何よりも平和な毎日が過ごせる事、それに感謝をできる程、俺は何も考えていないわけじゃない。






「ただいま」

 臨也の声も聞こえないで、俺は自分の世界に浸っていた。
 あぁ……幸せだ……ここで心臓が止まって、怖い事など俺にあろうか。
 目を閉じたまま、けれど意識はクリアに保ち続けていた。

「……澪士?」

 ここだよ、と呂律の回らない舌で言う。
 ついでに手なんか出して振ってみたら、荒い足音が聞こえてきた。

「澪士! なんて事――」

 がばりと布団を開けられる。
 あぁ幸せだったのに、どうしてこの至福を邪魔しようとするんだ。
 片目だけを開けて俺は臨也を確認した。

「……なに?」
「――びっくりした」

 まさか臨也の口からそんな言葉を聞く日がくるとは思わず、俺は虚ろだった瞳をぱちりと開けた。

「え……? 臨也、今何て、」
「麻薬かと思ったんだけど」

 ――あぁ、彼が『びっくりした』理由はそれか。
 俺はへにゃりと笑って見せる。
 麻薬なんてやるわけないじゃないか、怖いもの。

「こんなに食べたの?」
「うん……ごめん」
「いいよ」

 どうせ大して心のこもった謝罪ではないと知っているのだろう。
 コートを脱いで、くしゃりと頭を撫でてくれた。

「澪士、もう少しそこに居ていいよ。俺は夕食の準備をしてくるから」

 そう言って臨也は俺の額にキスを落とすと、この部屋から出ていったらしかった。
 少し、ほんの少しだけ――寂しいと思ったけれど、彼もまた、そう思ってくれているのだろうか?
 俺は身体を起こしたけれど、チョコの包み紙の甘い匂いには勝てず、またばたりと布団にダイブした。






 凄く凄く、幸せで。
 俺、この世の中は嫌いなものが多いけど勿論好きなものもあるんだよ。

 例えば、ふかふかのベッドに寝転がって迎える夜とか。
 あつあつのハンバーグに、笑顔を零すとか。
 些細な事で離別して、また仲良くなるとか。
 今日も大好きだよって、キスをして起きる事とか。

 変わらない事が大切なんじゃなくて、お互いを愛し合っていくのが一番大切。
 ずっとずっと、大事にしていくからって誓えたなら。


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