「……エロいね、その顔」

 はぁと俺は溜息をつく。臨也の言葉なんて自覚済みだ。
 大体は、お前が白い液体をかけるのが悪いんだろ。

「お前は自分に興奮してんのか?」
「ちょっと澪士、馬鹿な事言わないでよ。流石の俺でもそれは勘弁なんだけど」

 とか言いつつ、勃ちつつあるのは何故だ。

「まぁ確かに、顔射したせいかもしれないけど、それは澪士の元々のエロさがあるからであって……」
「死ね! お前は何でそういう事が言えるんだ! それにさりげなく俺のせいにすんなよ!」

 んー? と臨也は首を傾げる。
 素早く、俺の苦い味のする唇に触れたあと、また言葉を紡ぐ。

「平気じゃないよ」

 ね、と笑う臨也を、もう今度は殴る気になれなかった。
 いや、だってこんなんでも一応恋人だし……一応今はベッドだし……一応イケメンだし。
 がっかりなイケメンだと誰かが言っていたように思うが、俺も本当にそう思う。

「……馬鹿じゃねぇの」
「じゃあその『馬鹿』を今から君の中に挿れて思い知らせてあげるから、用意してくれないかな」
「だからそれが馬鹿だっつってんの!」

 いやいやいやどんながっかりだよ! 残念すぎるだろ!
 駄目だ、世界の皆さん……こんな奴に惚れてはいけない。
 こいつ基本、外見しかよくない。すきあらば『人、ラブ!』とか叫んでるし。

「……とか言いつつ、用意する君って本当に偉いよね。可愛いよ」
「……何か言った?」

 ムカついたので、指を臨也の口の中に突っ込んでやった。
 本当は自身の蜜で解すという、下手すれば自尊心が崩壊しかねない事をやろうと思ったのだが、もういい。臨也の唾液でやってやろ。
 大体何が悲しくて、男が穴を解さなくちゃならないのだ(しかも自分の)。

「ん……っ、まぁ今日は許してあげるよ」
「馬鹿じゃねぇの、何で俺はいっつもお前に指図を受けなきゃならないんだ」
「別に俺ので解してもよかったんだよ?」

 『俺の』って、どういう意味だよ……。
 それがせめて、白い液体を指している事を願う(どっちでも嫌だけど)。

「……見んなよ、臨也」
「それは無理なお願いだね」
「頼みじゃなくて命令だから」

 ――まぁどっちにしろ奴は俺の方を食い入る様に見つめるだけなんだ、だったら俺も気にしない様にやるしかない。
 おいそんなに見るな、俺に穴があく。
 仕方がないので俺もできるだけ臨也の方を見ながら、唾液に濡れた右手で触れた。

「んっ……」

 ぴくりと脚が動くのは、痛みでなく快楽から。
 恥ずかしさに未だに閉じそうになるが――揺れる足を叱咤し、何とか開いたままで保つ。
 ――俺、もうこんなの何回もやってるだろ? いつも通りだよ。
 ひぅ、とか、あっ、とか、1人で出すには少し恥ずかしい声が何度も漏れた。

「……可愛いねぇ、澪士は」
「……ふ、ぅん?」
「ねぇもう挿れたくなってきたんだけど」

 はっ!? 俺は一瞬で我に返る。

「おま、馬鹿! そんなの嫌だからな! お前のなんか今挿れたら壊れ……うわぁ……」
「あのさ、そういう言い方しないでくれる?」

 もっとでかくなっちゃうよ、と臨也の狂気じみた笑顔が近付く。
 いや、いや、いや、何でだよ! 何でそんなにでかくなるんだよ!
 そんなの入るわけな――

「ひっ!?」
「ごめんねー。今日は疲れててあんまり我慢できないから、挿れさせてくれる?」

 後でたっぷり優しくしてあげるからさ、と耳元で囁かれる。
 耳元で――という事は、どういう事かお分かりだろうか? 賢い腐女子の皆さん。
 ……そう、

「あー……っ!」

 ――あいつ、挿れやがった。

「あっ、あぁ、」
「あぁごめんね澪士#、痛かった? 大丈夫、痛みはすぐに快楽に変わるから」
「そういう問題じゃ、あっ、」

 ぼろぼろと涙が零れてくるのは俺のせいじゃない。
 ぐすぐすと痛みに耐えながら、言いたい事がある、と臨也の紅い瞳をじっと見る。

「――、臨、也」

 ゆっくりと言葉を紡ぐと、なに? と頭を撫でられた。
 痛みをなくすように、呼吸は止めないように気をつける。

「……臨也も、痛いだろ」
「……どうして?」
「俺、ロクに力抜かなかったから」

 抜けるわけないだろばーか、とか心の中では言っているんだが。
 きゅ、と髪に絡められた綺麗な指に、思わず心臓を掴まれた様な感覚に襲われる。

「……澪士は、優しいんだね」

 ありがとう、と耳元で囁かれた言葉に、俺は思わず悲鳴を上げた。
 ……言わずもがな、さっきのだ。

「――じゃあ、手加減しないね」
「はっ!? どういう――」

 一体どんな了見だ、と思ったのは一瞬だった。
 抜ける刺激。空白を埋める質量を求め、内部がひくつく。
 貫かれる衝撃。……ずっと奥まで差し込まれて、幸せだと思う俺は馬鹿だ。

「あっ、あぁっ、あ、」
「……可愛い、澪士」

 いずれ律動に声がついていけなくなる。でもそれはいい事だ。
 そうなると、絶頂は近い。

「あ……っ、ん、んんっ……」
「……声、もっと聞かせて、よ」
「あ、あっ、ん……っ、んっ!」

 口を押さえていた手を外される、所在のなくなった手は臨也の背中に回された。
 こいつも悪いんだし爪くらい立てていいよな、と理性的な打算が働いたわけではなく、殆ど本能的。
 近くでその綺麗な瞳を覗くのも、……悪くない。

「あっ、あっ、い、ざ、」
「一緒が、いいの?」

 こくんと小さく頷くと、臨也は笑った。
 あ、駄目だ、そんな顔で笑われたら、俺……。

「あっ……やっ、あぁあ……っ!」
「くっ……」

 達したのは、ほぼ同時だった。
 恥ずかしい事ではあるが、臨也が俺の締め付けでイってくれたのなら、それはとてもとても幸せな事だと思う。
 勿論1度目のソレで満足するわけがなく、臨也は抜こうとはしなかったが。
 こうして俺に喋る暇を与えてくれるんだから、いい人だと思う。

「……ごめんね? 痛かったでしょ」
「……臨也」

 なに? と臨也は言う。

「……次は、もっと爪立ててやるからな」
「ふふ、うん、覚悟しとくよ」

 臨也は笑った。その綺麗な仕草で。

「……なに、俺の事そんなに好き?」
「いや、違うって! 別に感じてるわけじゃ――」
「被虐心をそそられるの?」

 被虐心って何だよ! 俺はMか!
 ――心の中で突っ込んでも、何となく納得している俺が居る。

「じゃあ、第2ラウンドの始まりね」
「う……は、はい」

 結局逆らう事はできずに。

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