「楽しいね、澪士」
「うん、とっても」
死にたくない、と喚いていたのは最初だけだった。
澪士、死にたいんじゃなかったの? と臨也に指摘されそれもそうだと、抵抗をやめたのはつい先刻だ。
今は腹にかかる臨也の体重に、安堵さえ覚えている。
「……臨也もちゃんと人間だったんだね」
「当たり前じゃん。俺、こんなに澪士のこと愛してる」
「ほんとだ」
首にかかる手も、嗚呼――愛しいと思うよ。
俺は俺自身によって殺されるのでなく、愛しい人の手にかかるのだったら。
それ程幸せな事はないと思う。
「ああ、最後に言わせて、臨也」
「ん? 何でさいごなんていうの」
「……愛してる」
ずっとずっと好きだよ、偽善でもいいやこの際。
このまま手を緩めずに、臨也には握り潰してもらいたい。
だったらどんなに楽か――どうか気付かないで。
臨也の顔が歪む。
俺の視界が滲む。
「――澪士、」
「さよなら」
このまま呼吸が止まって、愛しい人に殺される資格もない俺は、死んでしまえばいいんだ。
(俺……俺、何てことを、)
(澪士……!)
(……よかった、いきてる)