探し物は真実だけ


 ふらっと出てきた池袋。
 ここであまりに有名な情報屋は、いつも黒の服を纏っている。
 ……そのせいか、黒い服を着ているだけでじろじろ見られる。
 まぁ、あからさまな視線ではなかったけれども。

「新宿の情報屋さんなんじゃなかったっけ……」

 何故、池袋での方が有名なんだ。平和島静雄のせいか?
 ――ちなみに彼は俺の主人、折原臨也に逆らう者でありながら、何故か殺意は湧いてこない。
 誰よりも愛しいヒト、臨也に歯向かう者なんて、皆死ねばいいと思っているのに。
 どうして彼は例外なのか分からない。
 ――むしろ、それどころか。

「静雄」
「……イレインか」

 こうして街中でばったり会っちゃうと、立ち話が始まってしまうような関係だったりして。

「今日はあのムカつく野郎は居ないんだな」
「いくら静雄さんでもそれは怒りますよーていうか、暇なのは俺だけなんで」

 静雄はあからさまに眉をしかめる。
 ――まぁそれは俺の言動のせいではなく、池袋の危険人物ナンバー1とナンバー3が立ち話をしているのを見て、通行人が明らかに避けて通っているからかもしれないが。

「あの人は忙しいんですよ。俺に仕事を見つける為に」

 にっこりと笑うと、静雄はまた嫌そうな顔をした。

「それよりも静雄さんも、何暇してるんですか」
「暇じゃねぇ。休憩時間だ」
「成程ー、それで俺に会っちゃった、と」

 それは気の毒ですね、と言う。

「何なら昼ご飯に付き合ってあげましょうか。男1人じゃ寂しいでしょ」
「手前が来たって何も変わんねぇだろ」
「あなただけよりマシでしょ?」

 トイレ行ってくるから待ってて、と微笑む。
 そう――男1人で寂しいなら、女を呼べばいい。
 別に静雄を貶める気はないけどそういう噂が流れるのも悪くはない。






「……随分派手に化けたな」
「化けたなんて酷いわ、ダーリン」
「気色悪い」

 静雄は顔をしかめて手を払いのけようとしたが、それ以上の力で腕に腕を絡ませてやる。
 勿論、静雄が本気で抵抗したのなら勝ち目はないから、手加減してくれているのだろう。
 手加減してくれているという事は満更でもない証だ。

「ねぇ、今日はどこ行く? あっ私、あそこのケーキが食べたい!」
「は?」
「ねぇ、いいでしょ? お願い!」

 ――勿論、こんな言葉遣いをしているのには、訳がある。
 先程難無く入った女子トイレで完璧な女装を済ませてきたのだ。
 声が少し低いのは、風邪を引いたという事にして。
 枯れているのはヤったからだという事にすればいいだろう。
 スカートから伸びる白い足、静雄に絡ませる腕、言葉を発する時の口の形。
 全ての動作を意識すれば、ほら、こんなにも簡単に『女』になれる。

「……分かったよ」
「本当? やったぁ!」

 静雄の手を引き、いかにも甘えている感じの女を演じる。
 ちなみに、残念ながら甘いものは嫌いだ。
 コーヒーでも頼もうかと思っている。

「……手前、何のつもりだ?」

 店に入り、奥まった場所に席を見つけると、静雄は開口一番そう切り出す。

「え? 何のつもりって?」
「あのノミ蟲にそうやれって言われたのか」
「やだ、違うに決まってるでしょ」

 くすりと笑ってみせる。

「あなたと一緒に居たいの。だって、あの人の傍に居たら、あなたと会える時間が減っちゃう」
「……本当の事を言え」
「やだ、怖い」

 静雄は本気だった。
 多分、答えなければ店を破壊してしまうだろう。
 ……こちらとしてはそれでも一向に構わなかったのだが、店が可哀相なのでやめておく。

「別に、他意はないのよ。これがどこまで通用するか確かめたかったっていうのも、あるけど。……私、あなたの事好きなのよ」

 艶やかに笑う。

「いいじゃない、たまに、気分転換に付き合ってくれたって。あなただって私の事、嫌いじゃないんでしょう?」
「それは――」
「分かってるわ」

 だからケーキ食べて、と。
 運ばれてきたショートケーキを静雄の方に押し出す。

「私の奢りよ」

 そう言って笑うと、静雄は漸くフォークを手に取った。






「また引っ掛けてきたの?」
「引っ掛けるなんて失礼だわ。そんな風にしたつもりないもの」
「向こうはその気みたいだったけど?」

 夜遅く新宿の自宅に帰ると、主人は可笑しそうに笑った。

「それに、嘘ばっかり教えて。俺が君の仕事を見つけてきた事なんてないじゃん」
「……1回だけあるわ」

 スカートを脱いでも、まだ消えない。
 艶かしい女の口調で、彼にほほえむ。

「あなたは私を拾ってくれたじゃない」






戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -