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其の冷たい温もりに溺れる(三成)

 俺は、彼らのかつての関係を聞きかじったに過ぎない。
 因縁、ではないのだ。もっともっと、甘く懐かしい。
 二度と取り戻せないような、そんな時を過ごしたとか。

 だったら、何故。

 だったら何故、今、彼らは敵対しているのだろう?
 いや、それだけでなく、命を狙っているのか。
 俺はその肝腎の原因を聞いていない。
 どうして彼らが、相対することになったのか。

 そうしてそれは、つらくないのか。
 一度でも、大切な時を分かち合った人を、斬るのはつらくないのだろうか。
 三成なんかは「斬滅する」とか言っていたが。
 俺にはそれが、無理をしているように映る。






 三成は部屋に居た。
 何をするわけでもなく、ただ坐って居るように見えるのは、彼なりの精神統一なのだろう。

 決戦の日が。
 近いから。

「三成」
「……澪士か」

 俺が呼ぶと、億劫そうに閉じていた瞼を持ち上げる。

「お前は……きっと、後悔することになると、俺は思う」
「何故だ?」

 敢えて問うているのだろうか、この男は。
 答えなど分かりきっているだろうに。

「相手は、徳川家康だぞ」

 三成の表情は変わらない。微かにも動くことなく。
 もう随分共に居ると思ったのだが、やはり俺には分からない。
 まだ、俺たちの間には、過ごしてきた時間が足りないらしい。

「解っている。だからこそ、斬滅するのだ」
「解ってない。いや……解ってないのは多分、俺の方だが、」

 どうして。
 殺すことなんてできるのだ、と。

「簡単なことだ。私はあの男が憎い」
「だから、どうして……!」
「それは貴様が知る必要はない」

 頭に血が上るのが分かった。

「俺だって……! お前のことを、もっと知りたいと思うのに! お前はいつも、何も答えない……俺は、お前たちのことを偶然聞いたのだ! お前が言わないから……俺だって、知りたいのに……」
「知って何になる」
「……ッ!」

 言いたいことが、沢山出てきた。
 お前は俺の事を知っているのにとか、俺は一応お前の情人だとか、色々。
 でもその一つも音にはならなかった。
 廊下中に声が響き渡ったからだ。

「敵襲ーっ! 徳川軍が近くまで迫っている!」
「!」

 三成の表情が変わる。
 何も言わずに立ち上がった。

「三成――」
「貴様は此処に居ろ」
「でも、俺だってっ!」
「私が、此処に近づく敵を斬滅する」

 何も言えなくなった。
 静かに刀を見、点検を始める三成。
 数秒の間に、問わなければならないことを思い出す。

「あの……そうだ、三成。聞かせてほしい」

 三成は何も言わない。

「何でお前、家康と敵対してるんだ?」
「……私は、秀吉様にお仕えしている。理由などそれだけで十分だ」
「……ほんとに?」

 それだけか、と言外に問う。
 そんな俺に、三成は呆れたような目を向ける。

「あ……ごめん、やっぱ今のナ――」
「……貴様が居るからだ」
「シ……って、え?」

 三成は刀を持っていない方の手を俺の頭に添える。
 自分の方に引き寄せるようにして、俺たちは口づけを交わす。

「ん……く、んぅ、」

 角度を変え、貪るように。
 久々の口づけは、甘く、悲しい。
 ――そんなことを考えている間に、糸引くように口づけは終わった。

「……みつ、なり、」
「決して此処から出るなよ」

 言い残して、三成は部屋を出る。俺は黙って三成の背中を見送った。
 ――今、言ったのは、どういう事だ? だって、三成が守るのは――

「俺……は、」

 秀頼様の許へ行かなければ。俺が守らなくて誰が守る。
 三成が消えた後の、何の気配も無い廊下を、遠くに鬨の声の聞こえる廊下を、俺は走り抜けた。









盛大な勘違い



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